第34話 プレミアム会員
ここは、芸能事務所アムールの会議室。ノイジー・セレニティ・プロジェクトのメンバー、4人、上新智香部長、アムールの浅利女史、甘楽、そして織田が激論を交わしていた。
「プレミアム会員を作りたいと言う希望はわかるけど、会費はいくらにするの?それからどんな特典にするの? お金に見合う価値を出さないといけないのよ。」
智香が言う。
甘楽は少し考えて答える。
「年会費1人十万円。月間1万円しないな。
月に8000円から9000円位だから大丈夫だろう。これで会員を千人集めれば、年間売り上げが1億が立つ。」
甘楽は得意そうにうそぶく。
「ちょっと待ってよ。千人? それじゃあ、プレミアム感を出しにくいでしょう。それに、プレミアム会員の特別な恩恵と言うのはどうするの?」
智香が尋ねる。
「そこは織田が考えれば良いことさ。」
甘楽は言い放つ。実は詳細は何も考えていなかったのだ。
「おい、ちょっと待て。」織田が言う。
「オタクだってバカじゃない。価値があるものには、当然、金を払う。
だけど、それほど価値がない物のぼったくりをすると、ファンが事務所に反感を持つようになるぞ。
そうすると、回り回って誰にも良いことがない。 最後は、ファンがこぞって事務所移籍運動を始めるぞ。」
織田が脅す。
「無理なく払えるのは、プレミアム会員でも、せいぜい月に5000円だな。
それで、どんな特典があるかによっては、やっぱりお金は払わない。その分を、別のことに回したほうがいいからな。」
「お金を使う立場の織田くんの意見の方が正論ね。
あと、プレミアム会員に対するサービスについても、ノイセレの3人に負担がかかりすぎないようにしないとね。
毎月プレミアム会員対象のライブとかやってられないわよ。」
「あの…」
おずおずとスタッフの浅利が声をあげる。
浅利は、アムールの社員で、実は大卒30歳で、智香より年上だが智香の部下になっている。
内心はいろいろ思うところはあるのだろうが、普段は従順に智香に従っている。智香からすると、頼れる部下だ。
もちろんコミュ力お化けの智香のことだから、如才なく彼女と接し、うまく彼女を立てながらもコントルールしている。
そんな浅利が、議論の中で声を上げるのは珍しい。
「プレミアム会員に対しての限定配信はどうでしょう。
一般用、会員用、そしてプレミアム用の3種類にするんです。プレミアムのセッションは同時接続がほとんどないので、各自のコメントも読まれやすいですし、場合によってはインターアクティブにもできますよ。
考えをまとめていたのだろう。彼女の話はよどみなかった。
「それいい!!」
織田が食いついた。
「配信時間が1時間あれば、10人とか絡めるね。場合によっては20人以上行ける。個人で会話できるとなると、プレミアム感も出るし」。
織田は続ける。
「あと、グッズが欲しいな。特注というか何か特別っぽいものがいいな。名前が入るとか。い。べつに無料で配らなくていい。 特別なものを買う権利だ。」
「グッズについては、毎月1個ね。カスタマイズする手間を考えると、その方が良さそうよ。」友香が言う。
智香の言葉に、甘楽が反応する。
「じゃあ最初はやっぱり奈美だな。何かないかな…。おっ!」
「何か思いついたのか?」
織田が聞いてくる。
「おお、とびきりの写真がある。これを使って、相手の名前を入れたフォトスタンドを作るのはどうだろう。
これはインパクト特大だぞ。」
そう言って、甘楽が携帯の写真を見せる。
3人は、一瞬言葉を失った。
スマホの中に写っていたのは、ビキニの水着姿でエプロンだけつけた奈美が、テーブルの上の料理に向かって両手を広げて、カメラ目線で何か話している。
これで、『〇〇君のものよ。美味しく食べてね。』ってやればいい。
どうだ?」
甘楽は胸を張る。
「淀橋、お前天才か!」
織田が感激して声をあげる。
「…そんなことより、どうしてこんな写真撮ったのかの方が疑問ですけどね。」
智香の部下の浅利が突っ込む。
「上新部長が、宣伝に使えそうなオフショット写真をどんどん撮っとけと言ったんで、料理の写真でも撮ろうかとか言ってるうちに、奈美がノってきて、水着エプロンにしようと言ってきたんだ。
俺のアイディアじゃない。奈美が自分で提案したんだよ。」
甘楽は説明する。
「普段の姿からは、絶対想像できないなぁ…。」
織田がつぶやく。
奈美、いやなじみのクラスメイトとして、毎日なじみの地味子の姿を見ている織田としては、何とも言えない感じなのだろう。
智香が言う。
「まあ、だいたい方向性はまとまったわね。
¥
じゃぁ、この写真を使って、スタンドを作りましょう。」
「フォトフレームスタンドですね。」
スタッフの浅利が確認する。
「メッセージ付きフォトスタンドかいいね。メッセージはカストマイズ。だから時間がかかるのは仕方ないわね。 絶対待つ価値もあるわょ。
と智香。
「『織田くん、好きよ』みたいな奴な。言葉は織田が選ぶのがいいと思うぞ。
まぁ、あまり問題にならないようなやつがいいかな。でも話題になったほうがいいしね。」甘楽が言う。
それに対して智香が言う。
「織田くん、メッセージは、後でメッセンジャーで送ってください。
プレミアム会員で希望者は、入れる名前を決めてこれを注文すると言うことで」
浅利が言う。
「多分、5000円で大丈夫ですね。」
智香は首を横に振る。
「その辺は原価を見てから決めましょう。損するわけにもいかないしね。 浅利さん、注文の価格を確認してちょうだい。一人ひとり文字を変えるパターンでね。
最終的には受注生産でやることになるからね。」
「会員数は結局どうするんだ?」甘楽が尋ねる。
「200ね。これは決定事項よ。プレミアム会員限定グッズの購入権利、後は甘楽が前に言ってたダウンロードね。何かある?」
浅利が答える。
「カストマイズした名前を入れたASMRは、どうでしょうか。
ベッドの中でヘッドホンで聴きながらという感じですね。
名前だけ録音して、後でつなぎ合わせればいいでしょう。 杏奈さんと爽香さんのどちらにしましょうか。」
智香が言う。
「2人両方でいいんだけど。とにかく、最初の月は、爽香と杏奈の両方にASMR音声録音をやらせてもいいわね。 甘楽、あなたが音声合成というか繋ぎ合わせをするのよ。」」
「へいへい」甘楽が答える。
「たぶん、写真に名前を入れるのも、俺のほうでやったほうがコストが安いし、時間もそうだな。業者は個別の写真をスタンドなりキューブに入れればいい。」
「ダウンロードを含めた販売サイトはいつ頃できるの?
智香が甘楽に尋ねる。
「ワイヤーフレームは合意できた。後は実際中身を入れて実装してみて微調整だな。ターゲットは10月1日リリースだ。」
「キリがいいわね。ノイセレのサイト、ファンクラブ、プレミアム会員も含めて、10月1日リリースにするわ。
浅利さん、それで社内調整の方お願い。」
「承知しました。」
浅利がうなずく。
「織田くん、爽香と杏奈に喋らせるASMRのセリフのスクリプトと、奈美に言わせる、フォトフレームに載せる言葉を考えてね。」
「任せてください。」
織田胸を張る。
「明日の夕方4時までには、LINEグループに送ります。」
かくして、最初のプレミアム会員販売が決まった。
後日の話だが、200人のプレミアム会員枠は、3時間で完売した。
そして、プレミアム会員のほとんどが、3種類のグッズを全て購入したのだった。
「…俺ばっかり忙しいじゃないか!」合計600件近いカストマイズをすることになった甘楽がぼやくのだった。
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こんにちは。お急ぎですか。
…バイトしてる子もいるよ。
作者です。
さっそく織田くんの出番です。
今回が最後かも…そんなことはないと思います(たぶん)。
いやあ、何とかここまで毎日更新できたなあ。ただ、これからは自転車操業なので、更新頻度は保証できません(弱気)。
それはさておき、お楽しみいただければ幸いです。
ハート、★、感想いただければ幸いです。もちろんレビューも。
特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。
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