たとえ、骨になっても
真坂 ゆうき
森の中で
いつものように、森へキノコや兎などを取りに行ったその帰り道の事であった。
来た時にはなかったはずの、見慣れないモノが道端に転がっている。それはニンゲンだった。おそらくそうだ。おそらくと言う言葉を使ったのは、もうかれこれ私は数十年も人間を見ていなかったからだ。
どうしようか。いや、これを見なかったことにして捨て置けば、森のそこらじゅうを徘徊する動物や魔物の餌になり、自然に還って行くことだろう。
むしろそうすべきだろう。人間は私にとって、歓迎すべき同族ではなく、かつてのように憎んでも憎みきれない敵でもなく、最早どうでも良い存在に成り果てていたからだ。
存在そのものがどうでも良い。だから、これが生きようが死のうが関係は無い。
一度はそう思ったのだ。だが、結局そうしなかったのは、この傷つき血まみれで倒れ伏している人間に同属のよしみで憐みの感情を持ったから、などでは決してなく、どうしても見逃すことのできない憂慮すべき事態に気づいてしまったからだった。
……もうかれこれ五十年程前にはなるだろうか。その頃、私が覚えている限り、人里からはかなり遠い場所にあったはずのこの森に、見た目おそらく十歳になるかなるまいかというこの人間の子供が、何故傷つき血まみれの姿で倒れ伏しているのかということだ。
この森には、自分の魔法によって人間の侵入を防ぐ為の結界を張り巡らせている。
その結果、この森に入ろうとする人間は奥へ進もうとしても同じ所を堂々巡りしたり、はたまた入口へと戻ってきてしまったり、まともに侵入が出来ないようになっているはずなのだ。それが不本意にも侵入が出来てしまっているということは、考えられることはそう多くない。
一つ。誰かが自分の抹殺を狙ってこの子供を差し向けた。
二つ。この子供が自力でこの森への侵入を企てた。
三つ。結界の力が弱まった結果、人間の侵入を許した。
一つ目の可能性はゼロに近いだろう。そもそも、自分はこの五十年程、人間どころか誰とも出くわした覚えはない。特に人間に恨みを持ちこそすれ、恨みを持たれるようなことをした覚えはない。子供が迷い込んだというほうがまだ説得力がある。
従って、二つ目の可能性については全くないとは言い切れないが、如何せん当の本人がこの状態では分かるものも分かるまい。下手をすると、このままあの世行きという可能性すらある。
そして、三つ目については……残念ながら思い当たる節がある。私は世の中では魔女である、と蔑まれてこそいるが、れっきとした人間である。書物などでよく囁かれているように不老不死の身体を持っていたり、黒猫を飼っていたり、ましてや箒で空を飛んでいたりはしない。この通り、きちんと年相応に老いぼれているし、むろん家族はいない。
そう、人間であるがゆえに避けられない寿命。それが近づいていて、結界が弱まっている。今のところ、この可能性が高そうではある。
だが、どちらにしてもこの子供が何のためにこの森への侵入を企てたのか。
……まあ、動機などはどうでも良い話だ。興味などこれっぽっちもない。
永い時間を魔法の研究に費やしてきたが、それの実験材料とするためのモルモットが欲しいとも考えていたところだ。ひとまずは手当をしてやり、理由を聞きだした後に使えそうなら使い、使えなければ森に打ち捨てておけばよいだけの話であろう。
そう思い、私はこの子供を隠れ家へと連れて行くことにしたのだった。
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