11. 習慣を最適化する
習慣が重要であるということは、多くのビジネス書で語られている。
スティーブン・R・コヴィーの『7つの習慣』が一番有名だと思うが、ハイディ・グラント・ハルバーソンの『やり抜く人の9つの習慣』など、習慣を味方につけることでアウトプットを改善することができる事例が数多く語られている。
メイソン・カリー『天才たちの日課』では過去の偉人達が何に時間を割いて何に時間を割かなかったか、習慣を味方につけることでどのように仕事をこなしていったかなどが書かれている。
習慣を味方につけることは、自身のインプットやアウトプットをコントロールすることに近い。
小説を書くことを習慣づけていれば安定的に小説を更新し続けることができるし、書き続ける中で自身の成長を感じることもできる。
また小説を読む習慣をつけていれば、日常的に新たな表現、新たな設定を思いつくきっかけになったり、新たな知識をつけることも習慣化されていく。
使い古された語り文句だが、一日になにかひとつ成長できるのなら、三六五日あればまったく何もしない人と大きな差をつけられる。
本節では、物書きにおける習慣の重要性について語ってみたい。
◆
習慣にしなくても小説を書くことはできるし、小説を読むことだってできる。
それなのに、習慣はなぜ重要なのか?
それは、余計な判断をする労力が省けるからだ。
学校や仕事が終わったあとの時間を書くことに費やすか、読むことに費やすか――この判断をする前に、うだうだとテレビを見たり、ゲームをやったり、Youtubeを見たりして時間を無駄にした経験はないだろうか?
私はある。
「作家になる」「いい小説を書く」という目的に照らせば、この時間は客観的に見て時間の無駄だと言える。
無論、流し見したテレビやYoutubeで新たな知識や発想を得ることもないことはないが、偶発的なひらめきに頼り過ぎるのは危険だ。
「この時間は小説を書く」「この時間は小説を読む」など明確に時間を定義しておけば、その時間がきたら躊躇なく作業を始められる。
仕事を始める前の「仕事やるかー」みたいな無駄に気合を入れる時間がなくなれば、数分から数十分のロストが減り、年間通して数時間から十数日の時間的余裕が生まれる。
丸十数日分の空き時間が確保できれば、筆の早い人なら長編が一本書けるし、読むのが早い人なら数十冊分長編小説が読める。
このような時間的ロスを減らすのが、作業を習慣化することのメリットだと言えよう。
これは作業だけに限らない。
『天才たちの日課』では、毎日どこの店で何を食べるかまで習慣化している偉人について書かれていた。
これは「どこの店で食事をするか」や「どのメニューを選ぶか」などで悩む時間を削減するための習慣だ。
ここまで行くと極端な気もするが、ここまで極端に人生を削って作家という生き方に最適化している人もいる、ということは意識しておくといいだろう。
◆
ただし、習慣化すればそれでよいというわけでもない。
例えば、毎日同じようなライトノベルだけを読んでいたら既存作品にない発想のライトノベル作品を生み出すのは難しいだろうし、毎日同じものを書き続けていても成長がない。
重要なのは、習慣の中に自分を成長させる工夫を入れておくことだ。
格闘ゲーム界のレジェンド梅原大吾は、毎日少しでも成長感を得られるようにするため、日々の格闘ゲームの取り組みで気づいたことや試したことをメモするようにしていると言う。
このように、競争の厳しい世界で生き残ろうと思うのなら、ただ漫然と習慣をこなすのではなく、自分自身を成長できるような形に習慣を最適化していくことが非常に重要だ。
これは『努力は量だけでなく質も重要』という定説に似ている。
毎年新人賞に応募していたり、毎日連載小説を投稿していても、そこに改善のための努力がないならあまり意味はない。
今の自分の欠点や課題は何なのか、それを突破するにはどうしたらいいのか、自分の作風を活かせるジャンルは、過去の受賞作から見る次の受賞作の傾向は。
そういったことを常に考え続け、模索することも非常に重要なはずだ。
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ここまで習慣の効用について語ってきたが、習慣を曲げ過ぎないことも問題だ。
習慣を重視し過ぎて、友人からの遊びの誘いや興味のあるイベントなどに行かなくなると、それはそれでインプットの種類が画一化されて新しい発想が出てこなくなったり、人間関係に支障を来す可能性がある。
東野圭吾先生も『ミステリーの書き方』で語られていたが、興味のない分野の誘いなどでも断らずに積極的に参加したほうが、新しい分野への視野が広がって作品のアイデアに繋がったりする。
習慣はあくまでも『イレギュラーがなくても安定的に自身を成長させるための基盤』としてあるべきで、過剰にイレギュラーを避けるのもよくないだろう。
◆
ここまで、習慣と質と量の重要性について語ってきた。
ただ、これはあくまで一般論であり、こんな努力をしなくても作家になったり、作家生活を続けている変異種もいるのだと思う。
重要なのは、あなたが確実に前進し続けられる方法を確立できることであり、そのための参考になったのなら幸いである。
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