第17話【莉音パート】お兄ちゃんに嫌われるくらいなら
お姉ちゃんを一通りお説教してから、その数時間後。
潮風が心地よくて、みんな、テンションがずっと上がりっぱなしだね!
そんな面々の中、エリナが舷側を見回して、驚いたような呆れたような声をだした。
「分かってはいたけど……相変わらずとんでもないわね、あんたんちの財力」
お姉ちゃんが、いつもの口調とは違って無感情に返事をした。
「まぁ……それほどでもないけど」
そんなお姉ちゃんを見て、わたしは首を傾げる。
大海原ですごい開放感だというのに、お姉ちゃんは浮かない顔をしている。
さっき、お説教したことが堪えたのかな? いやでも、お姉ちゃんに限ってそんなことないと思うけど……
でもそれが気になったのはお兄ちゃんも同じらしく、お姉ちゃんに声をかけていた。
「奈々海、なんかちょっと元気なくないか?」
「えっ!? そ、そんなことないよ……?」
「でも、いつもより大人しいし……」
「そ、そうかな? 普通だと思うけど……」
そんなやりとりを聞いて……わたしは少しムッとしてしまう。
なんでお兄ちゃんは、お姉ちゃんばかり気にするの?
だからわたしは、二人の間に割って入った。
「お兄ちゃん、きっと船酔いだよ!」
お兄ちゃんが真剣な顔で尋ねる。
「奈々海、そうなのか?」
「うん、そんな感じ……」
お姉ちゃんは苦笑いしてうなずいた。
わたしは、ここぞとばかりに話題を変える。
「じゃあしょうがないよね! それよりお兄ちゃん見てみて、すごく綺麗に写真撮れてるでしょ! 前に潜ったときに撮影したんだ!」
「おお……本当だな。まるで竜宮城にでもいったかのようだ」
上手くお兄ちゃんの興味を引きつけられたみたい。
わたしが撮った海の写真は、どれも色鮮やかで、サンゴの隙間を泳ぐ魚たちが映っている。広々とした空とエメラルドグリーンの海……いつまでも見ていたいくらい綺麗だった。
するとお姉ちゃんは「ちょっと日陰で休んでくるね」と言って、船のキャビンに戻ってしまう。
本当に、体調が優れないのかな? 今朝までは、お兄ちゃんのベッドに忍び込むほど元気だったのに?
お兄ちゃんは気になるのか、しきりにお姉ちゃんのほうを振り返っている。だからわたしは、また微妙な気持ちになってしまった。
そんなことをしているうちに、目的の海域に到着して、シュノーケリングを始める。
青く透き通った水の中には、鮮やかな熱帯魚が群れて泳いでいた。全員で歓声をあげながら興奮気味に話し合う。海の鮮やかさに、お姉ちゃんも少しずつ回復してきたのか、最後にはみんなで笑い合いながら船に戻れた。
(まったく……お姉ちゃん、なんだったのかな。まさかアレも、お兄ちゃんの気を引く演技だったんじゃ……)
なんて考えながら別荘に帰ってきたわたしは、自分の部屋で写真の整理を始めた。
今日撮ったシュノーケリングの写真は、どれもすごく綺麗だ。クラウドにアップしておけば、いつでも見られるし、あとでお兄ちゃんにも見せやすい。
「……ん?」
そう思って確認していたら、変なことに気づく。
お兄ちゃんの隠し撮り写真が入っているフォルダが、いつの間にか共有設定になっていたのだ。
(あ、あれ? な、なんで……!?)
お兄ちゃんにダメだと言われてからは、バレないように、ロックした上で誰にも共有していなかったはずなのに……!
頭が真っ白になるも、半ば無意識に設定を開き、共有をオフにした。
(ま、間違えて設定しちゃったのかな……? でも、そんな記憶はないんだけど……)
ドキドキが収まらない。
お兄ちゃんは気づいていないだろうか。
もし確認されていたら、たくさんの隠し撮り写真や、最近は動画もあるから……それらを見られてしまったことになる。そうなったら……
ダメだと言われたことを、まだやっているなんてバレたら……
お兄ちゃんに、嫌われちゃう……!
(だ、大丈夫……まだバレていない……お兄ちゃんは気づいていないはず……!)
今日のお兄ちゃんはいつも通りだったし、何も言ってこなかった。
だから気づかれなかった。
つまりわたしのほうが先に気づけたわけだから、大丈夫……
バレていないなら、わたしはまだ、お兄ちゃんの近くにいられる。
(お兄ちゃんを取られたくない。わたしが一番近くにいたい)
隠し撮り写真をそっと画面上でスクロールしていく。
お兄ちゃんの、素の表情がたくさん写っている。
誰にも見せるつもりはない。
お兄ちゃんにももう見せない。
このお兄ちゃんは……わたしだけの宝物だから。
(でももし……お兄ちゃんに気づかれてしまったのなら……)
わたしはスマホをぎゅっと握りしめて、窓の外を見つめる。
オレンジ色の空に、まるで竜宮城の余韻が残っているような幻想的な雲が浮かんでいた。
海の香りがかすかに漂ってきて、わたしの胸はまたきゅっと締めつけられる。
(お兄ちゃんに嫌われるくらいなら、そのときは……)
わたしは日の沈む海を、眺め続けていた。
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