幼馴染みだらけでハーレムなのに、【全員ヤンデレ化】しててヤバすぎる! 甘やかされながらも、刺される寸前で毎日生き延びてます……

佐々木直也

第1話 全員が、ヤンデレじゃなければなぁ

 朝か……


 ぼんやりとした意識の中、オレ──神崎悠人かんざきゆうとは重い瞼を開けた。


 ん……この圧迫感は……


 視界に飛び込んできたのは、至近距離に並んだ複数の顔、顔、顔……さらに体に感じる柔らかい重み。


 こいつら、またベッドに潜り込んできたのか……


 いい加減に慣れたオレの隣で、寝たふりをする美少女が挨拶をしてきた。


「悠人君、おはようございます」


 一番最初に声を発したのは黒川恵くろかわめぐみ


 整った顔立ちで、寝ている隣で「おはよう」だなんて微笑み掛けられたら……朝からクラッとするしかない。


 さらに恵は、可愛いパジャマ姿なもんだから、余計に朝からしまう。


「悠人さん……今朝のご気分はいかがですか……?」


 オレが恵にクラクラしていると、反対側の隣からは、控えめな声が聞こえてくる。


 振り向くと、水瀬みずせしおりが、はだけたパジャマ姿のままこちらを見ていた。


 その襟元の隙間からチラリと見える下着は……意図的なのか無意識なのか……! もう生唾を呑み込むしかない。


 オレは思わず視線を逸らすと、今度はオレの腕を枕代わりにしている美少女が呻いた。


「う〜ん……お兄ちゃん……まだ眠いよ……」


 寝たふりをしているうちに本当に寝てしまったのであろう美少女は、真島莉音まじまりおん。まるで着ぐるみのようなパジャマで、オレの体にしがみついてくる。


 お兄ちゃん、などと口走っているがまったくもって兄妹ではない。赤の他人だ。まぁ幼馴染みではあるのだが。


「悠人、いい加減に起きないと遅刻するわよ!」


 そういって、ツンツンしながら言ってくるのはさかきエリナ。


 いやコイツ、今日はなんでオレのワイシャツを着ているんだ? 下半身までは見えないが、まさか素足ってことはないよな……?


 そのだぶっとしたワイシャツ姿はメチャクチャ可愛いんだが……コイツの場合は気が強すぎるんだよなぁ……だからいまいち素直に萌えられない。


 そんなことを考えていたら、オレの布団の中から、その体を密着させて、まるで子猫のように、残り一人がのそっと出てきた。いや、重いんだが……


「お・は・よ、悠人。今日も美少女五人に囲まれて、ご満悦だね」


「誰がご満悦だ、誰が……」


 ぼやきながら顔だけを起こすと、真島奈々海まじまななみが無防備な笑顔でこちらを見つめて──って、え!?


 布団に隠れてまだ見えていないが……コイツ、何も着ていないんじゃないか!?


 オレの体に密着させる奈々海の肩が、露わになりすぎだ! もちろんオレに押しつけられている胸は、谷間どころか……ふにっと潰れている様子まではっきり見える!


 だから、布団の中へと消えていくその身体が『パジャマに包まれている』ようにはまったく見えないのだ!


「おい、奈々海! おま、まさか!?」


「そう、そのまさか。全裸でーす」


「何考えてんだお前は!?」


「えー? だって、毎日毎朝、美少女の幼馴染みとベッドインしているだけじゃ、そろそろ物足りなくなってきたかなと思って」


「物足りないってなんだ!?」


「手を出してくれても、い・い・ん・だ・ぞ?」


「いいわけあるか!?」


 そう──そうなのだ。


 コイツらは、ここ最近、ずっとこんな感じで、オレの寝床にベッドインしてくるのだ……!


 しかもわざわざパジャマやら着ぐるみやらに着替えて。まぁ今日は一名だけマッパなのがいるが……


 ため息をつく間もなく、混乱はさらに深まっていく。


 何を隠そう──この五人の美少女は、オレの幼馴染みだった。


 美少女の幼馴染みがいるだけでも、男子からは羨ましがられるというのに──それが五人もいるのだ。


 幼稚園のころから付き合いのある連中で、ご近所さんだったから小中学校はずっと一緒。


 さすがに高校は別々になるかと思ったのだが……なぜか全員、オレと同じ高校に進学した。


 いや『なぜか』も何も……


 長い付き合いで、さすがのオレも気づいてはいた。


 コイツら全員、オレに気があるんじゃないの……? ってことに。


「悠人、今日の朝ごはんは何が食べたい?」


 奈々海がにじり寄りながら聞いてくる。その無防備な笑顔と体を見て、オレは心底困惑した。


「いや、朝ごはんとか、今それどころじゃ──」


「え、なになに? わたしを食べたいってわけ?」


「一言も言ってないが!?」


 オレが悲鳴じみた声をあげると、エリナがすかさず言ってくる。


「悠人のご飯は、あたしが作るわよ!」


「いや、ご飯がどうこういう前に──」


 オレが困り果てていると、目が覚めたらしい莉音が怒りを露わにする。


「お姉ちゃん何してんの!? マッパでお兄ちゃんに抱きつくのはやめて!」


 ちなみに莉音と奈々海は双子の姉妹なのだが、今はどうでもいい。


「莉音ちゃんも、わたしくらい胸があればねぇ……どうして姉妹で、こうも違うのかしら?」


「なにおう!?」


 などと姉妹ゲンカが始まっても誰も止めず(いつものことなので)、しおりが言ってきた。


「悠人さん、さすがにそろそろ起きないと本当に遅刻しちゃいますよ」


「あ、ああ……そうだな」


 そうしてオレは奈々海を押しのけて起き上がる。


「あん……もっと触ってもいいのに」


「触りません!」


 オレが起き上がると、奈々海のあられもない姿を見てしまうので……紳士なオレは、硬く目をつぶっていた。


 そうやってオレが立ち上がると、いち早く、ベッドから出ていた恵が言ってくる。


「それじゃ、わたしは先に朝食の準備をしてきますね」


 するとエリナも起き上がる。


「ちょっと! わたしがするっていってるでしょ!」


 そうしてベッドから飛び出したエリナは、やっぱり下半身にズボンをはいていなくて……剥き出しの白い太ももが目に飛び込んできた!


「ちょっとあんた!? 何見てんのよ!?」


「見せたのはお前の勝手、ぐふっ!」


 そうしてオレは、理不尽にも枕を投げつけられた。


「はぁ……朝からこれだもんな……」


 オレはため息をつきながら、乱れた布団を見下ろす。


 すでにベッドを離れた幼馴染みたちは、騒ぎながら次々と部屋を出ていった。


 奈々海だけは、オレの部屋だというのにブラを手に取り着替え始めたので……オレは視線を逸らす(可能な限り)。


 こんな感じで、高校に入ってからというもの、幼馴染み達のアピールは過激になっているのだ。


 クラスメイトの男子達は、今や羨ましいを通り越して恨み辛み全開で、オレのこの悩みに対して、誰一人としてまともに取り合ってはくれない。


 そりゃあ……そうだよな。


 傍から見たらこんなハーレム状態、何が不満なんだって言いたくもなるよな。


 もちろんオレだって、これが純粋な好意であるのなら、なんの不満もないさ。


 よりどりみどりのこの中から、大変申し訳ないのだが一人を選ばせてもらって、念願の恋人としてキャッキャウフフしながらも、他の幼馴染みとも仲良くやっていきたい……などと妄想を抱くさ。


 コイツらが、だけを持っているのであれば。


(普通じゃないから、困っているんだけどなぁ……)


 そう、コイツらは普通じゃないのだ。


 まぁ……いくら幼馴染みだからといって、毎朝男の布団に潜り込むこと自体も普通じゃないと思うのだが、そうじゃないんだ。


 はっきり言ってこの五人は……性格異常者、人格破綻者といっても過言ではない。


 なぜならば──


(──全員が、ヤンデレじゃなければなぁ)


 それならオレだって、好意を素直に受け入れるというのに。


 オレが、幼馴染み五人のヤバさに気づいたのは、わずか一ヵ月前のことだった……

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