第八話: 諠��ア縺ォ逡ー蟶ク縺檎匱逕溘@縺セ縺励◆過多③

 頼には、背後から紺色の光が差し込んできたように見えた。

 だが、神凪の目には違う光景が映っていた。


 紺色のオーラを纏うユニコーンが、頼の背後にあるスマホから姿を現し、その鋭いツノを脇腹へと突き刺している――。


「グハァァ!」


 ユニコーンがツノを引き抜くと、頼はその場に膝をつき、口から止めどなく血を吐く。


「はははははははははは! なんて愉快なんすかね! 人が痛みで苦しんでいる光景は!」


 オットーの目は狂気に染まり、その顔はまさに殺人鬼そのものだった。

 すると、幼い少女の声が響く。


「うるさい、オットー………。一人殺すたびに発狂するの、鬱陶しい………」


 オットーは丸メガネを指で押し上げ、声のする方を見る。


「あぁ、すまないっす。少し興奮してしまったっすね、アイリーン」


 そこには、黒いマントを羽織り、身長と同じほどの巨大な杖を片手に持った少女が立っていた。

 怪我をしているわけでもないのに、彼女の頭は血に塗れており、顔から血が流れ落ちている。


「別にいいけど………」

【人物:アイリーン・ケリー 異能力:妖艶な魔女モルガン・ル・フェイ 特殊スキル:視線詠唱】


 頼は苦しそうに呟く。


「何……で………」


 その問いに、オットーは邪悪な笑みを浮かべながら答える。


「そおっすね……シンプルな話っす。あんたは自分の真後ろにあるスマホに気づかなかった。ミサイルがスマホから大量に放たれた時、後ろからミサイルが飛んでこなかったから。そして彼女は異能力、妖艶な魔女モルガン・ル・フェイ――モルガン・ル・フェイという魔法使いの力を使用できる能力を使い、ユニコーンへ変身し、あんたの背中を刺す……。あんたらみたいに無敵になれるぶっ壊れ異能力者に対して使える作戦っすね」


 オットーは頼へ歩み寄りながら続ける。


「雷化や水化、炎化――これらの能力は最強でありながら、明確な弱点があるっす。それは……」


 頼の目の前まで来ると、見下しながら言い放つ。


「使用者自身が雷化、水化、炎化していることを常に意識していなければならない……つまり、意識していない瞬間を突けば倒せるんすよ」


 すると、アイリーンが無感情に口を挟む。


「オットー、早くして………」


 彼女は杖を高く掲げ、一言呟く。


地の精霊ノーム


 その瞬間、神凪の両側の地面が膨れ上がる。


「え? 何!?」


 膨れ上がった土の中から、巨大な土の手が現れ、神凪の体を掴み、持ち上げる。


「はいはい、すんませんっす。さて、それじゃあ今回の目的の話をするっすかね」


 オットーは頼の前にしゃがみ込み、予想外の言葉を口にする。


「神凪さんを、僕らにくれないっすか?」

「………は?」


 神凪と頼は同時に反応する。


「それは……どういうこ……ゴホォッ……」

「そもそも君たちの目的は茂木さんの回収じゃ……」


 オットーはニコッと微笑みながら話し出す。


「あんなの、あんたらと戦うための“口実”に決まってるじゃないっすか」


 そう言うと、オットーはスマホの電源をつけ、その中に手を突っ込みながら続ける。


「正確には、神凪さんが欲しいってよりかは、神凪さんの持つ特殊スキルが欲しいんすけどね」


 スマホからハンドガンを取り出し頼へと向ける。


「あのスキル、現能操作の異能力のこんである勾玉などを取り出し、入れることができるうちの組織には絶対必要なんっす。嫌だと言うなら、お前もろとも神凪を殺すっす。さっきの戦闘で、僕たちとあんたらの力量の差くらい、もう分かったはずっすよね?」


 頼はオットーを見つめながら、視界が歪み始めるのを感じる。

 血が足りない……早く決着をつけなければいけない……でも、戦うための力はもう残っていない。


「早くしないと、失血死するっすよ〜」


 そんなやり取りを遠くから眺めていたアイリーンは、無表情のまま考える。


(どんな答えを出そうと、結局頼は殺す予定なのに………やっぱ性格悪いな、あいつ………)


 そして、神凪の方へ目を向ける。


(意外と簡単に達成できそうだな………日本異能力者侵食計画………)


 だが、神凪がいるはずの場所に目線を合わせた瞬間――そこに神凪の姿はなかった。

 代わりに、何かにみじん切りにされたような、土でできた地の精霊ノームの腕が散らばっていた。


「は……?」


 アイリーンは思わず声を漏らす。


「え………? どこ行っ――」


 疑問の声が途切れる前に、後ろから声が響いた。


「もしかして私のことを探してる?」

「!」


 アイリーンのすぐ背後――そこから、神凪の声がした。

 アイリーンは振り向くことなく、すぐに前へと踏み出し、距離を取ろうとする。


 だが、すでに遅かった。


 足元には、足首ほどの高さの水が広がっており、両側からは水がまるで生き物のように動きこちらを覗き込むかのように揺れている。


 なんとか逃げようと足を動かすが、進もうとする方向とは逆向きの水流が流れており、バランスを崩して転んでしまう。


 オットーに助けてもらうために息を吸い込み、大声を上げようとするが、その瞬間、水がまるで蛇のように飛びつき、アイリーンの口の中へと流れ込んだ。


 彼女は思わず水を飲み込んでしまい、大きく咳き込む。


(いつの間に……!?)


 地の精霊ノームは水では切れず、火でも焼き切ることができない。

 なのに、なぜか神凪はそこから抜け出し、アイリーンの背後にいる。


 そう考えた瞬間――彼女の予想は、大きく外れることになる。


「なんだ? 私のことを忘れるなんて、酷いではないか。けしからん」


 アイリーンの背後から聞こえてきたのは、まるで母親のような優しい女性の声だった。


(あ………ありえない………)


 アイリーンが後ろを振り返ると、そこには色白の肌に黒焦げた着物を纏った茂木が立っていた。


「な………なんで………」


 アイリーンは震える声で呟く。


「私が動かん植物状態になっとったとでも思っておったのか?」


 茂木はニヤリと笑い、一言。


「お前らを誘き寄せるための“口実”として、死にかけの動かん供物のふりをさせてもらった。さあ、仕置きの時間だ」


 ――その頃、オットーは頼の答えを黙って待っていた。

 すると、頼は顔を下に落とし、かすれる声で呟く。


「こんな……グフッ…どんよりと……した空気の中で死にたくは……ないな……」


 そして、顔を上げ、一言。


「わかっ…た…神凪を渡すから……俺は助けてく…グフッ…れ……なんなら、俺も……お前らの仲間にな…る」


 その言葉に、オットーは驚いた顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「まさか……自分も入れろとは、想定外っす。ふふふ……面白いっす。そうっすね、いいでしょう」


 そう言いながら、オットーはハンドガンをスマホにしまう――と見せかけ、即座にスマホから銃口を頼へ向ける。


「……って言うとでも思ったっすか? 入れるわけないっすよ! さぁ、死ね!」


バン!


 オットーは心の中で勝利を確信する。


(隙を突いた攻撃、これで雷化はできないっす)


 銃弾は頼の頭を貫通し、地面へと倒れる――はずだった。

 しかし、頼は倒れることなく、頭に穴が空いた状態で口を開く。


「な〜んてな」

「は?」


 あまりにも不可解で、あり得ない光景が目の前に広がる。

 頭と脇腹に穴が空き、血が滴り落ち、死んでもおかしくないはずの頼が――立っている。


「まさか、こんなに上手くいくとはな。どうせ、お前らの上のやつは気づいていたんだろうがな」


 オットーは驚きのあまり、動けなくなる。


(何故動ける? 何故喋れる? 何故思考を巡らせることができる?)


 頼は後ろを指差しながら続ける。


「あと、科学者みたいな見た目してるくせに、『周りを見て気づく』ってことができないんだな」


 オットーは考える。

 先ほどまでの戦闘で、頼たちがどのようにしてこの状況を打開したのか――。


「はぁ……後ろを見てみろって。全て分かるぞ」


 オットーはゆっくりと振り返る。

 すると、そこには――茂木が猫特有の長い爪をアイリーンに向け、威圧してい風景は飛び込んできた。

 茂木はオットーの視線に気づき、問いかける。


「そちらは終わったか?」


 オットーはすべてを察した。


 最初から――茂木が殺されたあの瞬間から、すべては茂木の広範囲幻覚視こうはんいげんかくしによる幻覚だった。


 茂木が殺された“瞬間”も――神凪との戦闘も――今目の前で話している頼もすべてが幻覚。


(“どうせお前らの上のやつは気づいていたんだろうがな”って……琺瑯時ほうろうじさんが、この幻覚による作戦に気づいていたってことっすか?)


 その瞬間、目の前にいた頼の姿が消える。

 代わりに、背後からオットーの首を狙うように、雷の稲妻を纏った木刀が構えられていた。


「これで終わりだ」


 オットーは半ば諦めたように肩を落とすと、ひとつ質問する。


「一つ聞いていいっすか。あんたらは最初から、茂木が殺されたあの瞬間から幻覚のことに気づいていたんすか?」


 頼は答える。


「いや、気づいていなかった。茂木が殺された、あの時はな……でも、茂木の遺体を回収しに来た時、すでに薄くオーラが見えていた

「らしい?」


 頼は頷き、続ける。


「気づいたのは神凪だ。神凪曰く、『このオーラは広範囲幻覚視こうはんいげんかくしのものの可能性が高い。しかも、これほどオーラを薄くできるってことは、おそらく……』なんて言っていた。だが、やはり確証するには材料が足りなすぎる……。でも、最後の決定打になる材料が見つかったんだよ」


 頼はわずかに振り向いたオットーと目を合わせる。

 その目をじっと見つめながら、頼は続けた。


「茂木の遺体が人型になっていた。お前らは知らなかったらしいが、元々の遺体は猫型だった。この変化を見て、俺たちは『茂木が生きていることを俺たちに教えようとしている』と察した。だから――そのつもりで戦わせてもらった」


 オットーは「なるほど」と呟きながら顔をそれへと上げる。


 すると、近くに落ちていたスマホを踏み、そのまま中へと消えていく。

 次の瞬間、アイリーンの近くのスマホから姿を現し、アイリーンにスマホを投げ渡す。

 アイリーンもまた、スマホの中に消えていく。


「そのトリック、あまりにも想定外で、面白いっすね」


 オットーは、少し離れた場所にあるスマホから姿を現し、おふざけなしの本気の目で頼たちを見据える。


「これで最後のラスト勝負っす」


(……なんか、あの時みたい)


 神凪は、この風景を前に、芽衣と戦った時の記憶が頭をよぎる。

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