第23話 影に沈む無限回廊⑦~謎解き部屋Ⅱ

 

 第1の謎解き部屋から無事脱出することが出来た小春、アルト、ミラの三人は回廊の階段を登りきるとそこは行き止まりになっており、厚い霧に覆われた扉が忽然と現れた。アルトは扉の方へ近づきながら霧をはらうように手を左右に振ると、霧が薄れ複雑な紋様が絡み合い中央には黒い水晶がはめこまれている扉の全容が確認出来た。


 アルトは慎重に重厚な扉の奥へと足を踏み入れる。その後を小春とミラも続いて中へ入って行く。その部屋の中は一瞬息を呑むような光景だった。

 

 そこはまるで万華鏡の中に入り込んだかのような空間で、天井も壁も床もすべてが磨き上げられた鏡で覆われていた。四方八方に自分たちの姿が映り、音も反響して方向感覚を狂わせる。


「こ、ここは、また変な部屋だな」

 アルトがぼそっとつぶやくと、そのつぶやき声が何倍にもなって跳ね返ってきて、彼は思わず肩をすくめた。


「目が・・・回りそう・・・」

 ミラは額に手をあて慎重に足元を確認しながら歩みを進める。


 小春も乗り物酔いみたいに冷や汗をかきながら周りを見回した。そんな中、中央に黒と白のローブをまとった二人の男がまるで待ち構えていたかのように静かにたっていた。


「来たか、迷い人よ」

 声を発したのは黒いローブの男で、声には何の感情もない。


「この先へと進みたければ、我らが出す謎を解け。だが・・・気をつけよ、我は常に嘘を語る者。されど隣に立つこの者は真実のみを語る」


 黒いローブの男の声が部屋に反響し空気を張りつめたものへと変えていく。白いローブの男は何も語らず、静かに三人を見つめていた。その表情からは本当に真実を語るのか・・・などは判別が出来なかった。


 アルトとミラが顔を見合わせ注意深く周囲を確認していたが、小春は目を閉じそっと深呼吸した。

 

 ――どこかでこの状況に似た話を聞いた記憶がある。幼い頃、父と母が読み聞かせてくれた物語の中の出来事だったのかもしれない。光と影、嘘と真実・・・選択を誤ればすべてを失う、たしか・・・そんな話。


(嘘つきと正直者、どちらがどちらか分からなくてもどちらかに“隣の人に聞いたらどちらの扉を指すか”を訪ねれば必ず間違った答えが返ってくる・・・)

 

 小春はその理由を頭の中で一つずつひも解いていく。


(もしこの人が“嘘つき”だったら真実を語る隣人が“正しい扉”を指すけれど、この人はそれを“偽って”間違った扉を言う。もしこの人が“正直者”だったら、隣人・・・つまり“嘘つき”が言う“間違った扉”を、そのまま教えてくれる。どちらにしても、出てくる答えは、間違いだから・・・逆を選べば必ず正しい道に辿り着ける!)


「あなたに質問します」

 小春は堂々とした態度で黒の門番に尋ねた。


「あなたの隣の人にこの部屋の正しい扉を聞いたらどちら指すと思いますか?」


 黒の門番は一拍おいて、左側の扉を指さす。それを見た小春は迷うことなく右の扉を指さす。


「答えは、こっちです」


「そんなに簡単に決めちゃって大丈夫なのか?」

 アルトは戸惑いながらも小春に近づき彼女と視線を合わせた。


「小春はやっぱりすごい!」

 ミラも感心した様子で小春を見つめたあと、ふっと柔らかく笑った。


(やはり小春は何か違う・・・だから彼は彼女しか目に入らない・・・私が彼の心の中に入る余地なんてない・・・分かっているけど、彼の笑顔を見るたびに心の葛藤の波が押し寄せる。彼らの幸せ願いながらも、自分の想いが届かない現実がとても苦しい・・・)


 小春は少し頬を赤らめながら二人に説明しはじめた。


「私の父は数学とか論理の問題が好きで小さな頃からよく“論理パズル”を出してきたの。最初は難しくて全然解けなかったけれど、繰り返していくうちにこういうパターンは覚えちゃった」


「へえ――ただの優等生だけじゃないな、小春って」

 アルトは再び彼女の能力に目を見張り彼の中で彼女への想いがさらに深まり、愛しさに満ちた目で小春を見つめていた。


 小春は戸惑いながらも照れくさそうに笑う。ミラもそんな彼女を見て素直に微笑み返す。


 ——その時、彼女が指さした扉が鈍い音を立てながら開かれていく。


 その奥に待つのは、さらなる試練かそれとも新たな出会いか。だが、小春の心はもう恐れに縛られてはいなかった。彼女の中で少しずつ“自分を信じる”強さが芽生え始めていた。

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