風を受けて
壱 勝山
ここは甲斐国の中南部に位置する勝山(現在の山梨県笛吹市上曽根町)
これまで三日三晩にわたり対陣しているのは
信直と信恵は甥と叔父の関係にあたり(信恵が信直の叔父)、特に信恵はその父、
その時は信縄が優勢に立ち信恵が折れる格好となったが、信恵は諦めが悪い
信縄が逝去し、その長男で弱冠14歳の信直が家督を継がんとすると、再び反乱を起こしたのだ
その油川勢3千が布陣した勝山を睨む形で陣地を構えているのが、武田信直
後の
(武家の家督は嫡男が継いでいくのが筋というものだ。実際に我が武田家も信守、信昌、信縄と嫡男が継いできた。それを易々と信恵に渡すわけにはいかぬし、嫡男でない者が継げば古来より内乱が絶えなくなり国を亡ぼすと言われている…)
武田信直は此度の戦で油川勢を完膚なきまでに叩き潰すつもりだ
だが、信直が焦ることはなかった
三日三晩かけてにらみ合い、敵の戦意低下を誘ったのだ
信恵陣営では侍大将の
「信直は若く経験不足だ。そういった武将は大抵の場合、しびれを切らして今日にでも突入してくるだろう。そこに勝機がある」
「ですが信恵殿。信直は14歳なれど兵法を習得し戦上手の聞こえが高い。そのような彼がむやみに突入してくるとは到底…」
工藤虎豊は食い下がったが、頭にきた油川信恵が一喝
「虎豊!わしの戦術は確かである!それに口答えするとは何事じゃッ」
さらに信恵の隣に座る岩手縄美もそれに乗るように虎豊を罵る
「そうじゃそうじゃ。兄上に逆らう者は我が軍には要らぬ。どこぞに去れッ」
そう、岩手縄美は油川信恵の弟にあたり、油川勢の副将的な立場である
軍団の2人の長に怒鳴られて虎豊は悟る
(嗚呼、私は与力する陣営を間違えたようだ。あのお方は御屋形様にはなれぬ…)
工藤虎豊はついに武田信直と通じ、密かに油川勢の状況を書に認めて信直方の密偵、百足組に渡していたのだ
油川信恵の予想に反して武田信直は動かず、三日目の晩になって認めた密書には”油川勢の戦意は下がり、夜番の兵士も嫌気がさして眠りについている”と書かれていた
ここで遂に信直が動いたのだ
「足軽の首は要らぬ!大将首を携えた者には多大な恩賞を使わすぞ!突撃じゃーッ!」
油川勢は誰一人として起きている者がいなかったため察知が遅れたばかりか、陣太鼓の轟に飛び起きて槍も持たずに逃げ回る者や同士討ちを始める者までおり、混乱を極めた
信直を筆頭に、武勇に秀でた
また、予め通じていた工藤虎豊は配下に戦支度を整えるよう命じており、彼の配下は皆、起きていた
そして信直が油川勢に夜襲をかけると工藤勢も
「この私を罵った憎き奴らは許さんッ」
工藤勢は油川勢副将の
信直の手勢もまた油川勢侍大将の
信直方の勢い凄まじく、油川本陣の兵士たちも我先にと逃亡
信恵もまた逃亡を図ったが最後は飯富道悦の一太刀に背中から斬られて絶命した
「…これが信恵の首か」
勝鬨を上げた後の首実検
信直は汚いものでも見るような目でその首を眺める
だが、ふと逆の光景が脳裏に浮かんだ
(わしもこの戦で負けていたら信恵に同じような目で見られていたのだな…)
(これが戦の世か)
信直の魂の奥底が震えた
彼はその後も生きるか死ぬかの究極の二択の中をくぐり抜けることになる
この勝山合戦はその序章に過ぎなかったのだ―
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