第30話 ファナ、聖騎士に褒められる
そんなこんなで、ひとまず自らの黒歴史に蓋をした私は、エリクと共に調査隊として新ダンジョンに足を踏み入れたのだった。
「……ダンジョンって、やっぱりどこも雰囲気は似たようなもんなんだな」
序盤の上の階層を歩きながら、エリクがぽつりとつぶやく。
【志学】のダンジョンもそうだったが、上層階はうっそうと大樹が生い茂り、人工的に作られた光源が辺りを照らしている。
本来は地下を歩いているはずなのに、森を歩いているのと勘違いしてしまうほどに色鮮やかなその光景は、見事としかいいようがない。
……でも。なんかここ。
よく、できすぎている。
あたりを見回しながら、なんとなく胃にざわざわと嫌な予感を覚える。
このダンジョンができたばかりだからだろうか。
持ち主の力がまだ色濃く残っているが故に、そう感じるのかとも思うが、それにしても――。
「――魔物だ!」
先鋒を歩いている冒険者の一人が、そう言って後続に魔物の出現を伝えてくる。
ちなみに、私たちの調査隊は全部で11名。
新ダンジョンを調査するには少ないように思えるかも知れないが、他にも2組同じような調査隊を編成して、全部で3組に分かれて手分けして調査する手筈になっている。
そのための通信具も用意済みだ。
ボスモンスターと遭遇した時や、自チームが重大な打撃を受けて撤退を余儀なくされた時などに連絡を取り合うようにしている。
私とエリク、ギルド職員とリーゼント、王宮から連れてきた兵士2人と、先鋒を歩く実力派の冒険者パーティー5名の構成なのだが、先ほど魔物の出現を告げてきたのはどうやら冒険者パーティーのリーダー、聖騎士のようだった。
「ポイズンキャタピラーとレッドサーペントだ! 援護と同時に、別方向からの索敵も頼む!」
「了解!」
聖騎士の言葉に、斥候士の青年が応える。
斥候士というのは、冒険者パーティーにおいて主に索敵や罠解除、場所によっては罠を仕掛けて味方をフォローする支援職だ。
実力派チームなだけあって、メンバーのバランスもいいし連携も良く取れているわね――。
そんな感心をしながら全体の戦局を見回す。
う〜〜〜ん。
うん。私、そんなに出る幕ないわ。
まだまだ序盤の低層階ってのもあるけど、人数も多いし実力者揃いだし、私が手を出さなくても片付きそう。
エリクは前線に出て味方パーティーの手伝いをしていたし、ギルド職員と兵士もしんがりで後ろからの奇襲がないかを確認してくれていた。
いや、パーティーって楽だね!
時折、援護してあげた方が楽に仕留められそうなものだけ、後ろから
「ファナ、無事か?」
「今更。私を誰だと思ってるのよ」
魔物を退治した後、心配して私の元に戻ってきてくれたエリクだったが、今更何をいわんやである。
これまでも二人だけのパーティーで散々魔物を倒してきたでしょうに。
「ファナ殿。援護助かった」
そう言って後続にいた私に近づいてきたのは、今回のお仲間の冒険者パーティーのリーダーである聖騎士だ。
確か、シリウスとかいう名前だったと思う。
「とんでもない。私なんて後ろで高みの見物をしていただけよ」
「――いや、ファナ殿が後ろから的確な援護を入れてくれていたのはちゃんと見えていた。おかげでこちらも早く戦闘を終わらせることができた」
感謝する、と言って手を差し出してきた聖騎士に、私も握手を握り返す。
「さすがSクラスの聖騎士。よく見てる。でも私のことは『殿』なんて敬称をつけないで普通に呼んでくれると嬉しいわ」
「わかった。ではその通りにしよう」
私と聖騎士シリウスはにっこりと微笑み合うと、そのあとは何も言葉を交わすことなく黙ってまた元の持ち場についた。
「さすが、この国のギルドの、最高峰の冒険者なだけあるな」
先陣に戻っていくシリウスを見ながらエリクがそう告げるが、
「そうは言うけど、正直なところエリクだってそう変わりないじゃない。なんでクラスアップしないの?」
と、隣に立つエリクを見上げながら、兼ねてから疑問に思っていたことを口にする。
冒険者のランクは、SSを最高峰として、Sクラス、Aクラス、そこから下はBからFクラスまでランク付けされている。
SSランクは、まあいわゆる伝説級専用クラスみたいなもので、例えば爵位持ち魔族を倒したり、国の窮地を救ったりした者に与えられる特別クラスだ。
言ってしまえば、ほとんど付けられる者が存在しない。
Sランクは上位魔族や竜を倒せる、いわゆる王国に数人いるトップエリート。
ちなみに私もSランクである。えへん!
でもって、エリクのランクはBランクである。
SSランクは欄外とするとして、SとAが上の上とすると、Bは上の中。
個人的な見解ではあるが、エリクはSランクと言われても十分に納得できる実力の持ち主なのだが――。
「そんなことして、俺の正体がバレて騒ぎになると面倒じゃないか」
……ああ。
言われてみれば、確かにまあそうよね。
Sランクともなると、冒険者の中ではそれなりに話題になる。
王子というエリクの立場からして、目立ちたくないが故にBクラスに留まっていたのだと思えば、十分すぎるほどに納得のできる理由だった。
とはいえ、そうは言うものの――。
「だったら今回だって、わざわざ出張ってこないで外で報告を待ってればよかったのに」
「それはそれだろ。俺だって出来立ての新しいダンジョンなんて見てみたいに決まってる」
ちなみに今回の調査にも、一応素性は隠して参加しているので、エリクが王子だということは冒険者パーティーの人たちは知らない。
結局のところは立場云々よりも自分の好奇心を優先してしまう、王子としてはちょっとどうかと思う自由さのあるエリクなのであった。
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