第29話 ファナ、黒歴史と対面する
新ダンジョンの入り口に簡易的な封印を施してから四日ほど
職人たちの血と汗と努力が実を結んで、ようやく入り口に扉が出来上がった。
扉に施した術式に触れ、魔術を流して活性化させる。
それを一通り終えると、術式から手を離して軽く息をついた。
「……ふう」
「できたのか?」
「ええ」
近づいてきたエリクに向かって相槌を打つ。
「な……なんなんだこの術式……」
その後ろからは、黒髪リーゼントが驚きと感嘆の入り混じったような声をあげながら近づいてくる。
「なによ。なんか文句でもあんの」
「いや……、文句っていうか……」
どうやったらこんな術式を編み出せるんだ……?
扉に彫り込まれた術式は、さながら扉を美しく彩る装飾のようにも見える。
実用と視覚的美観を兼ね備えた術式は、既存にあるものではなくいくつかの呪文を効果的に重ね合わせたものだ。
まあ――、一介の魔術師にはできることじゃないよね!
えへん!
自慢!
「さて。じゃあ無事扉の設置もできたことだし。さくっと調査に入りましょ」
「ああ。でも本当にいいのか? こんな大掛かりな術を作った直後に突入なんかして」
急ぐことでもないし、一日くらい休みを取ってから行っても――と言うエリクに、
「別に平気でしょ。出発は午後だし」
準備はできてるから、それまでひと眠りすればすかっと回復するわよ!
そうけろりと答えてみせると、エリクは呆れたような感心したような笑顔を見せた。
それを見ていたリーゼントが、「……ひと眠りすればすかっと回復……?」と人のことをバケモノでも見るような目で見つめていたが、尊敬の念からくるものだと思って軽く流した。
☆ ☆ ☆
「ファナ。時間だ」
「ふぁ〜〜い……」
野営地のテントで軽く仮眠を取っていた私にエリクが外から声をかけてくる。
その声で簡易ベッドから起き上がり、ある程度身支度を整えると、声をかけるまで律儀に外で待っているエリクに向かって「いいわよ〜、入っても」と声をかけた。
さすが王子というべきか。
私に対してもちゃんと女性としての気遣いを忘れないところは、彼の育ちの良さを感じさせる。
シャッ、と外界と中を隔てる入り口の布を開けると、
「悪いな、起こして」
と言いながらエリクがテントの中に入ってきた。
「いいわよ。むしろ起こしてくれてありがと」
まだどこか微睡から抜け切らない調子でそう言った私だったけれど。
……そもそも、普通に考えて王子様に起こさせるとかありえないしね……。
そう思いながら、簡易ベッドの下に置いたブーツに足を入れようとした時のことだった。
……ん?
「エリク、その剣……」
ベッドに腰掛けた私の目の前まで歩いてきたエリクの、腰に帯剣していた剣がふと目に入り思わず尋ねる。
「ああ、これな。うちの宝物庫から持ってきた」
私の質問に対してエリクがこともなげに答えるが、『うちの宝物庫』ってことは、王家の宝物庫ですよね……。
「実は、ここに来るのが遅れたのも、こいつの使用許可を取るためだったんだ」
一応うちの家宝みたいなやつだしな、と軽い調子で言うエリクに、「……ちょっと貸して」と言って手を差し出す。
「いいけど、さすがにこれはやれないからな」
おそらくは冗談で言っているのだろうが、エリクが苦笑しながら私に剣を渡してきて。
その――、渡された剣をまじまじと見る。
…………………………。
……………………これ。
見覚えのあるフォルム。
そして見覚えのある術式。
嫌な予感が、徐々に確証に変わる。
そうして最後に、くるりと剣を回して見た柄の頭の部分に小さく入れた刻印を確認して、思わず天を仰いだ。
私が作ったやつじゃん…………!!!!
「? どうしたんだファナ」
思わぬところで過去の遺物と対面し、苦悩する。
……かつて私にもありました。
『最強の魔法剣ってどんな魔法剣だと思う?』と。
純粋な少女のように目をきらきらと輝かせて魔法剣作りに没頭していた頃が。
魔術×剣術って、使いこなせたら最強だと思うのよね!
見た目も超かっこいいし!
近距離も遠距離も攻撃範囲って無敵でしょ!
と豪語し、魔法剣作りに夢中になっていたあの頃。
そうして出来上がった剣の一振りが――。
ちょっとやりすぎた感満載すぎたので、慌てて封印した。
いや、普通に使う分にはいい剣なのよ!?
実用性にも優れてるし、見た目もいいし!
ただ、最後に出来心でつけたオプションが余計だった。
なんなら、今思うとこれも禁術案件で神様にぽっくり天に召されそうなくらいの
「……なんで王家の宝剣になってんのよ……」
私が死んでる間に何があった……?
内心でだらだらと冷や汗を垂れ流しながら、手の中の剣を見つめる。
――うん。
相変わらずデザインもフォルムもかっこいい。
私がこだわりにこだわりぬいて作っただけのことはある。
だけど――。
「……ファナ」
エリクが、先ほどから様子のおかしい私を心配して肩を揺すってくる。
「……あのさ。これって、普段からこんなふうに使われたりするの?」
「こんなふうにって?」
「だからその、こうして日常的に実用で使うかって意味」
「ああ」
こうしてエリクが気軽に宝物庫から持ち出すくらいなのだ。
日常使用されているのではとふと不安になりそう尋ねたのだが。
「実用で使うことはほとんどないな。今までだって王位継承式の時の式典用に使っていただけだったみたいだし。でも、俺はこれ結構気に入ってるんだ」
手にすごくよく馴染むし、ここの刻印に魔術を流し込むと切れ味がすごくよくなるんだ、とエリクが爽やかに答える。
――ああうん。そうね。
その刻印、超光線を収束させた
「見ると他にも術式が掘り込んであるみたいなんだが、他の術式に関しては触れて見ても動作しないから、おそらく壊れているんじゃないかと思うんだが」
ファナならわかるか? とエリクから尋ねられたことで、不安に塗れていた私の心はとりあえず安心できたのだった。
――よかった。この剣の本当の使い方は、どうやら知られていないみたいだ。
「……まあ、すぐにはパッとわからないから、この調査が終わったらじっくり調べてみるわぁ……」
過去の自分の黒歴史から目を背けるような気持ちでエリクに向かってそう告げると、
「そうか……。ファナでもそう言うってことは、やっぱり古代文明の遺産みたいな大層なシロモノなのか……」
と、なんだか考え込むような様子でそう答えられた。
……いや、違うよ!?
古代文明の遺産とかじゃなくて私の黒歴史の遺産だから!
心の中でそう叫びながらも、それを口に出すこともできずに、ぐっと飲み込んだ私なのだった。
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