第31話

なんてことを、彼はしたのか。



こんなわたしのことを、恋ごときで守ってくれなくたっていい。きみに守られるくらいなら、恋なんていらない。




「は、はなして…っ」


「無理」


「小鳥遊くん、今なら撤回できるから!」


「そんなんしねーよ。なんならもう一回言ってやろうか」



小鳥遊くんがドアに向かって進んでいく。わたしは、反対に立ち止まる。彼もすぐに立ち止まってくれた。



「わたしは小鳥遊くんの日常を壊したくないっ」



どんなに暗い思考を持っていようと、黒い感情が中で動いていようと、彼は友達といることをいつも選んでいた。


そうやってしてきたものを、奪いたくない。



「そんな自分になるのは嫌。独りでいるよりも嫌だから、」


「だけどおれは、たとえおれのこと守ってくれなくても高梨が優しい人間だってことを知ってるんだ。これ以上、おれが自分のこと守っておまえが自分のこと守らないで傷つくの、耐えられない」



わたしは、自分のことを優しいだなんて思ったこと一回もない。


人に優しくする機会なんてなかったんだ。


だから小鳥遊くんにだけ、そうできていたのかもしれない。



「泣いていい」


「泣かない…」



出かけていた涙とハナ水をすすると、彼はほのかに笑った。




「じゃあ明日から泣かせない」




あの遊園地は壊される。だからもう一緒にいられる明日なんてないと思ってた。ばかな人だよ、きみは。わたしのことなんて放っておいたらよかったのに。


学校では、誰かがいる時は、話しかけないでねって言ってあったのに。



もう本当に戻れないからね。


差し出された手をとって、今度はわたしの足から先に、教室のドアへと駆けた。

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