第14話:魔剣



 無念無想、という言葉がある。

 何も考えず何も感じず、しかし肉体は最適の動きをする。

 この前に、あらゆる策略や作戦は意味をなくす。 

 策略の先、作戦の上。


 秘剣「残月」。

 最初の斬り合いはその土台。

 相手を幻惑し、本命の一撃を理解できなくさせる。


 だが。

 今、かざりが放つのは。

 自分自身を斬り合いによって幻惑する。


 そしてそれに、はなびの怪腕が放つ一撃。

 直撃こそしなかったものの、衝撃でかざりが気を失いかける。

 天に導かれる剣が、放たれる下地が整った。

 あらかじめ引かれた線をなぞるかのように、刀が振られる。

 

 その一刀は無念無想。


 秘剣ではない。

 それは人知を一歩だけ、踏み越えた先にある。

 長い修練の先に得る特権を、強引に引き寄せる。


 あってはならない剣。

 魔の剣。


「――魔剣」




    魔

    剣





  残

  月

  崩


    」


 はなびとその中の鬼は当然として。

 当のかざりも知覚できなかったその一刀は――


 右の怪腕を、完全に切断していた。




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