第11話:――助けて



 数日後。深夜。

 用意された場所は、鬼崎の敷地にある古い神社だった。

 古い鬼神をまつるそこは、何度もこの儀式が続けられてきた場所なんだろう。


 着物に袖を通し、腰に刀を差し、僕はそこに立つ。

 かがり火だけが境内を照らしている。


 神社の本殿からはなびが姿を現した。

 巫女のような格好だ。左右に鬼崎の人が控えている。

 袖から伸びる四本の腕。


 その鬼の腕だけを、僕は斬る。


「かざり。ごめんね。こんなことに付き合わせてちゃって」


 しぼり出すようにそう言ったはなびに、僕は笑ってみせた。

 いつもと反対だな。

 祖父と真剣で修練した時のように、静かに刀を抜く。

 大丈夫。僕はいつもより落ち着いている。


「はなび。何言ってるんだよ」


 僕たちは境内に立つ。


「バスケと同じだよ。あの時さんざん君にやられたんだ。今夜は僕が勝たせてもらうよ」


 そうだ。これは絶対に、はなびを傷つける儀式じゃない。

 はなびを助ける儀式だ。


 僕ならできる。

 僕にしかできない。


 祖父は――あの人は僕より強いけど、はなびのことを知らない。

 僕は知っている。はなびは誰よりもバスケが好きで、誰よりもあのコートを楽しんでいた。


「……かざり」

「うん」

「私ね、ずっと怖かった。鬼の自分が。

 でも、かざりと出会って――私も普通の女の子みたいになれるんじゃないかって思ったんだ」

「僕が君を普通にする」

「お願い。――助けて」


 ああ。君を助けるよ。絶対に。

 口上はよどみなく口から出た。


「鬼斬役が一家、久賀かざり。正式な鬼斬りですらない不肖ふしょうの身ながら、一刀つかまつる」

「鬼宿しが一家、鬼崎はなび。宿痾しゅくあ※1 の快癒かいゆ※2 をこの一戦に願い申す」


※1:長くなおらない病気

※2:病気がすっかり治ること


「いざ」


 僕は刀を構える。はなびの怪腕に力が入ったのが分かる。


「参る」




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