第12話:秘剣



 はなびの怪腕と、かざりの刀がぶつかり合った。

 互いに一歩もゆずらない攻防。

 本来鬼の力は並外れている。一撃で人体を叩きつぶす。


 けれどもかざりは恐れない。

 勇敢だからではない。

 天才だからではない。

 かざりは気が弱く、天才には遠い。


 かざりは思い出す。

 あの夏の合宿(?)を。

 百目鬼家の別荘で、はなびに付き合ったバスケットボールの練習を。

 はなびのディフェンス。シュート。ドリブル。そのすべての動きを。


 覚えている。体が覚えるほどに、熱中した数日間。

 はなびの動きは、覚えている。

 この戦いを、あのバスケの練習の続きだと思う。


 だから、怪腕がくり出す暴風のような攻撃をかわし、前に踏み込む。

 刀が振られる。

 一撃で骨まで斬る刃を、はなびの鬼の腕はその甲殻で受け止める。

 二度、三度、四度。


 正面からまっすぐ切り込むだけでは、鬼の腕は斬れない。

 怪腕の甲殻を断つことはできない。

 はなびがすきを見せない限り。

 けれども、今は戦いのただなか。

 戦いを好む鬼の血が、はなびをつき動かしている。


 五度。六度。七度。

 刃が弾かれる。

 かざりの上半身が泳ぐ。

 おそらく、鬼の腕がかざりの動きに慣れたのか。

 反撃。

 怪腕が槍のようにかざりに迫る。


「かざり!」


 はなびが叫ぶ。よけて、と。

 けれども――


 かざりは、

 見届けているかざりの祖父は、


 笑った。


「――秘剣」


 それは。

 相手を幻惑した後放たれる必殺の一撃。

 七回の攻撃はその準備だ。

 一回一回が相手に気づかれないまま、その意識をそらしていく。


 相手がこちらの動きを見切ったと思った瞬間。

 それとまったく異なる一撃を正確に差し込む。

 自然に生じたすきをとらえるのではない。

 相手を幻惑し、すきを強制的に発生させる。

 ゆえに秘剣。


「残月」


 はなびの左の怪腕が根元から断たれた。

 しかし――




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