第9話:私ってやっぱり、鬼なんだって



 一週間が過ぎた。

 一人で歩く高校からの帰り道は、暗く長く感じる。

 その時だった。

 突然僕は、鬼崎の家の人たちに呼び止められた。


「お嬢様が、あなたに会いたがっています」


 その一言で僕は何も考えずに、用意された車に乗っていた。

 一番驚いたのは、すでに祖父が乗っていたことだ。


 案内されたのは鬼崎の家の屋敷。その一番奥。

 まるで座敷牢みたいなところに、はなびが座っていた。


 一目見て、息が止まった。

 はなびはヒガンバナが描かれた着物を着ていた。

 その理由。


 はなびの腕が――四本あった。

 あれじゃ、洋服は着られない。


 普通の腕が二本。

 そして、肩からもう二本、腕が伸びている。

 人の腕じゃない。色は濃い赤。硬い甲殻に覆われている。

 怪腕。鬼の腕だ。


「……あ、来てくれたんだ。かざり」


 はなびは僕を見て弱々しく笑った。なんて言えばいいか分からず、僕はバカなことを言った。


「学校に来ないから、心配したよ」

「あはは……これじゃバスケはできないよね。

 逆に考えれば便利かな? う~ん、でも反則?

 あれ? バスケに『四本の手でボールをドリブルしてはいけない』なんてルールあったっけ?」


 はなびは変なテンションでそんなことを早口で言ってから、ため息をついた。


「私ね、やっぱり鬼だったんだ」

「うん」

「私は誰も傷つけたくない。だからずっと抑えてきたんだ。

 だけど、あの試合で、つい力を出しそうになっちゃった。頭に血がのぼって……」

「でも君は、誰も傷つけなかった」

「たまたまだよ。よく分かったんだ。私ってやっぱり、鬼なんだって。

 何かあったら、人間なんて簡単に殺しちゃうかもしれない。

 この腕は、私の鬼の血の結晶みたいなもの」


 僕は何も言えなかった。

 その時、祖父が口を開いた。


「鬼崎の娘。我々久賀の鬼斬りがここに呼ばれた理由はご存じか」

「ええ。知ってます」


 はなびは姿勢を正した。


「昔からの取り決めにより、久賀は鬼と戦いしずめる。だが、それは私ではない」

「え……?」


 はなびの目が丸くなる。


「久賀かざり。私の孫がせん越ながら今回の介錯かいしゃくを務める」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 僕が……はなびと戦う?

 祖父は僕を見つめて、当然のようにこう言った。


「鬼の血という病、見事にってみせよ」




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