第2話
それから各地で魔物を討伐して回った。少しでも我々の存在を知らしめるためだ。何より、魔物は小説家である私にとって邪魔な存在でしかない。兵を失うが、戦うためにそもそも集めたのだ。必要な痛みである事は理解している。
これまでの道中、最も私が気にかけたのは金だ。魔物を討伐し、その地の領主に金を要求した。耳をそろえて魔物討伐報酬を出せと迫りに迫り、無理やりにでも金を出させた。兵への給料、その他経費をいつまでも私財だけでは補えないのだ。これも野望のためと切って捨てているつもりだ。
「よく領主にお伝えください。私達はあなたたちの土地にいる魔物共を倒し、民が作物と家畜を育てる土地を確保したのです。未来の事を考えれば、私が要求している金銭は安いものですよ。何も財産を全て寄こせとはいっておりません。ただ、正当な報酬を求めているのです」
私は野営地に来た領主の使者を相手取っていた。使者は青ざめた顔をしているが、そんなことは私の知った事ではない。
「セルギウス卿はただの騎士です! そのような要求を通す権利はありません」
「そうですか。ならば戦争です。領主が何処に居るのかぐらいは、想像できます」
「そ、それは……」
「私は一向に構いませんよ。兵はまだ戦えます」
「……す、少しお時間をください。明日! 明日には答えを持ってまいります」
「はい。良い返事を期待していますよ」
使者が逃げるように立ち去って行った。私はその姿を見届けてから、大きく息を吐いた。非常に疲れるが、これも小説家としての野望達成には必要なのだ。
「団長。また貴族相手に脅しですか?」
私の天幕へと入ってきたのは、長身の大男。黄金のような髪をした傭兵のドランだった。
最初、傭兵を募集した町からの付き合いで、今では副団長として私の補佐を頼んでいる。何より、他の傭兵からの支持が厚い男だった。
「脅しではない。正当な金銭を寄こせと要求しているだけだ。あなた達を食べさせるためにも、野望のためにも必要だ」
私はいった。
「野望ですか。団長の描く野望が何なのか。時々、賭け事の対象になってますよ」
ドランがにやりと笑みを浮かべた。
「それはまだいえない。しかし、あなた達は富を得る。俺の野望を叶える過程で必ず、そうなる」
私は自信を持っていた。だから、力強くいった。そもそも、叶わぬのなら死ぬまでだ。私は小説家として生きているのだ。それが絶たれてしまうのであれば、死ぬしかない。
「……その覚悟と信念に私達はついていきます。団長の燃える目に、すっかり私達はやられてしまったようです」
「そうか。ならば、それに俺はそれに全力で応えよう」
私はいった。同じく野心をもつ者同士、魂で通じるモノがあるのかもしれなかった。
「今後はどうしますか。救援を求める声が幾つか届いてますが」
「……それは後だ。奴らは仕掛けてくるぞ」
私はそういいつつ、立ち上がった。
私は小説家だが騎士でもある。戦争を知っている。そして、そういう臭いもよく知っている。あの使者は時間稼ぎだ。そろそろ、私が命令して送った偵察隊が敵の偵察隊とぶつかっていても、おかしくない。
ここの領主は金など払う気はない。それは既にわかっている。当然だ。いきなりやってきた傭兵団と貧乏騎士風情に、本音では金など誰も払いたくない。払うしかないと考え、仕方なく払う者が多数派だ。
「流石は団長。とても年下とは思えませんね。私が15の頃とは比べ物になりません」
「おべっかはよせ……戦闘準備はできているな?」
「できています。ここは敵地。常に臨戦態勢です」
「よろしい。では行こう。戦の前に兵を鼓舞する」
私はドランと共に外へ出た。既に兵達は集合している。武具もしっかり身につけ、いつでも戦える空気を纏っている。ドランと各部隊長の統率力は偉大だと改めて思う。私1人ではここまで兵を統率できなかっただろう。少しだが、感慨深いものがあった。
「諸君!」
私は兵達の前に立ち、叫ぶ。声あらん限り叫ぶ。
「我々には野望がある! 敵は必ずやってくる。しかし、恐れるな。我々が打ち勝てぬ敵などいない!」
私は演説の真似事が得意という訳ではない。ただ、兵達は鼓舞されるのを望んでいる。戦うために必要な、一種の儀式だ。
歓声があがる。毎度、この現象は不思議だ。私の言葉など無くとも彼らは勇猛果敢な戦士であり、優秀な兵士だ。それでも、こうして歓声をあげてくれる。
「報告! 偵察隊、敵先遣隊を粉砕! 帰還しました」
見計らったように、いや、実際に待っていたのだろう。偵察隊の隊長が報告しにやってきた。兵達が次第に沈黙し、私へ何かを期待する眼差しを向けている。何を望んでいるのか? それぐらいは鈍い私でも理解できた。
「我々の敵は魔物だが……立ち塞がるモノは誰一人許さない。我らの野望のために!」
私は自分でも仰々しいと思う動きと一緒に、また叫んだ。再び、歓声があがる。一際、大きい歓声だった。その熱気はしばらく冷めなかった。
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