恋
レイシア様は愛憎が滲んだ笑みを浮かべ、銃をリーシアに向けながら俺たちの方へ近づいてくる。
異国の兵器と一蓮托生を誓い合い、シスターとして破滅的とも取れる事をいとも容易く行うその様は、儚さの中に確かな狂気が孕んでいた。
「…ねえ、ユーリヒくん。この女は私たちのことを教会に密告しようとしてるんだよね?……それも自分たちの異端はなかったことにして」
「は、はい、、」
さっきまでの威勢は嘘かのように、リーシアの肩はブルブルと震えている。
それは毒蛇に追い詰められ、命乞いをする小動物のようだった。
「そっか……なら、この女と聖騎士を射殺して、私も消えるね。だから君は全て元通りの幸せな生活を送ってよ!」
レイシア様はさも当然のように、満面の笑みで呟いた。
そんな彼女の得体の知れない殺意に腰を抜かしたのか、リーシアは過呼吸を起こしながらその場に倒れ込んだ。
「な、何を言ってるんですか!?」
「…私ね、あれから色々と考えてみたんだ。……きっと、失意に犯された君を誑かして、自分の過去を盾に、君を縛り付けようとした私も立派な悪なんだよ。あれだけ偽善や見え透いたエゴが大嫌いだったのに…バカみたいだよね」
「俺はそれでいいんですよ!レイシア様が望むのなら、いくら縛られてもかまいません」
「ダメだよ。純粋で穢れてなくて優しい君の視界に私たちみたいな人間が入るなんて、、、私が……耐えられないの!」
レイシア様は掠れそうな声で、高貴さの象徴である銀髪をたなびかせながら、こちらを見つめてきた。
「……」
信仰や蓋然性はいつも俺を悪びれる様子もなく裏切ったが、レイシア様は違った。
……きっとこれは宗教と何ら変わらない。
自分の弱者性を権威で濁すか、恋で惑わすかのくらいの違いだろう。
でも、俺は人生で初めて全てを捧げてくれた彼女に、命をも投げ出したいと思ってしまったのだ。
反実仮想なんてもういらない。
俺は彼女から無理やり銃を奪い取り、街に自分たちの存在を顕示するかのように、空へ向かって何度も引き金を引いた。
破裂音が鳥の囀りを掻き消すようにこだまする。
「き、君は何をしてるの!?」
レイシアは困惑と不安が織り混ざった声色で、俺の服の袖を引っ張ってくる。
「俺はレイシア様の全てを愛してるんです!……さっきの答えですが、俺はあなたと二人で、このまま深みに堕ちて行くつもりです。あなたが死を選ぶのなら、俺も死にます」
「そ、そんなのダメ!……君が死ぬなんて嫌だよ…」
「なら、一緒にこの街から抜け出しましょう!全部最初からやり直すんです!」
俺はリーシアと互いに送り合った思い出のブレスレットを、叩きつけるようにして地面に向かって投げつけた。
レイシア様の手を取り、何も言わずその場から走り去る。
もしここでリーシアを殺して、聖騎士の元に帰って来なかったら、時間の問題で全て教会側に事の顛末がバレてしまうだろう。
……リーシア様が全ての罪を被って辱められ、殺されるのも、自分が死んで彼女と離れ離れになるのも、今の俺にはとてもじゃないが耐えられる気がしない。
王権と荘園、そして教会に支配されたこの国でどこかに逃げるのなんて不可能だと、俺たちは知っている。
特に教会を敵に回してしまったのならば、遥か遠くにあるとされる異教徒の地に逃げ込まない限り、殺されるだろう。
つまるところ四面楚歌なのだ。
……かつて愛した宗教とリーシアは斜陽と共に罅ぜ、俺の世界は彼女で満たされている。
「ユーリヒくんまた子作りしようね?」
「……はい」
ひとしきり愛を確かめ合った俺たちは、手を繋ぎながら赤い銃声を受け入れ、深く沈んでいったのだった。
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