第30話

 地面にひれ伏したリーダーをクライゼンを見上げていた

 倉庫内は血の海と化していた。男たちの小さなうめき声と共に生臭い血の匂いと弾薬を放つときに使われた火薬の匂いで充満している。

 小一時間もの間、男たちは思い思いの武器を手に取って殺し合った。これも全てクライゼンが持つサキュバスの力だ。

 そして誰一人として死んでいない。あとから情報を聞き出すために死なないように細かな調整をクライゼンが入れたのだ。皆うまい具合に手足を負傷しており、ほっとけば致命傷になりうるが逆に治療を受ければ命に別状はないだろう。

「はぁはぁ‥‥‥。思い出したぞ、お前の名を」

 リーダーの男が呟いた。リーダは目を切られただけでなく、足には太いナイフが突き刺さっていた。

「早く鎖を外して」

 クライゼンはリーダーにお構いなしで、最後に残った一人も魅了の魔法を掛けて思いのままに操り、鎖をほどかせていた。

「クライゼン。そうだろ?」

「足を撃ち抜いて」

 クライゼンがそう命令すると鎖をほどいた男は拳銃を取り出した。二発の乾いた銃声が鳴り響いた。彼は自分の両足を撃ち抜いたのだ。

 「どこで私の名前を知ったの?」

 「俺たちはC-TATに雇われた傭兵だ。数年前に派遣された国で噂を聞いた。竜とサキュバスの旅人の話だ。行く先々で問題を起こしたり、逆に解決したりするという。特にサキュバスの方は噂じゃ国を滅ぼしたという‥‥‥」

「単なる噂だよ」

 クライゼンはそう一蹴するとリーダーの瞳を見つめこんだ。彼女の紅い瞳は一瞬で彼の精神を掌握し、意識を彼方へと飛ばした。

 そしてクライゼンは壁際一列に男たちは正座させた。足を負傷した者もいるが命令されれば従う以外の道はない。痛みに悶絶し喘ぎながらほふく前進をして壁際までたどり着ききちんと正座した。その顔は苦痛で歪んでいる。

 クライゼンは自分が拘束されていた椅子を移動させて男たちに向かい合うように座った。一人一人を拷問して情報を聞き出すより、洗脳してからの方がより早くそして正確な情報が手に入る。

 かつてクライゼンが訪れた国ではサキュバスをそういう目的のためだけに使役していたところもあった。サキュバスという種族はこの手の魔法において他の追従を許さない程卓越した才能を持っている。クライゼンもまたその一人だ。

 この国で魔法というものが存在しないのもあるだろうが、クライゼンの持つ魅了の魔法は特に強力で同種族のサキュバスですら抗うのは困難なほどだ。これを掛けられた彼らはもはや抵抗する意思する持つことすら出来ない。クライゼンが問いかけることに知っていることを全て話す人形と化した。

「それじゃあ尋問を始めようか」

暗い倉庫の中にクライゼンの声が響いた。

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