第23話

 一年前に自殺したはずのフェルナンドがすでに死んでいたという話は実に奇妙なものだった。

 ガーゼルが話したことが本当だったら自殺したはずのフェルナンドはすでに死んでいたということになる。となると疑問が二つ生まれる。

 一つはフェルナンドはなぜ殺されたのかということだ。この国では自殺よりは殺人の方がありふれてはいるものの、かなりレアだ。数年に一度起きる起きないかの大事件に相当するはずだ。

 二つ目は、自殺したフェルナンドは誰なのかということだ。


 ガーゼルはその二つ目に関連して話し始めた。

 「地下水道が逃げ出した私はすぐに我に返って警察に通報しました。この国では馴染みがないので、電話番号がすぐに思い出せなくてさらにパニックになっていたのを鮮明に覚えています。なんとか通報を終えると警察はすぐにやってきました。でも警官たちが地下水道をどれだけ探索しても、フェルナンドの遺体は見つからなかったのです」

ガーゼルはそう言うとため息をついた。

「さらに数日後にはフェルナンドは母親のいる自宅に戻っているというのです。結局警察は私の見間違いだと結論付けてそれ以上の捜査は行われませんでした」

それはそうだろう。殺人事件の被害者が生きているというなら、そんな事件は起きていなかったと結論づけられるのは当然の話だ。

「ガーゼルさん。その時、見た光景が本当だと確信を持って言えるのか?」

「それは…」

アルドールが尋ねるとガーゼルは言葉に詰まった様子だった。

「自分の記憶に自信が持てなくても仕方が無い。もう五年前の話しな上に、ガーゼルさんあなた一人でその秘密を抱えているとなおさらにな。それでどう思う?」

ガーゼルの話を要約したものを端末にせっせと書き記していたクライゼンは急に話を振られて二、三秒ほど考える素振りを見せた。

「もしこの話が本当なら、私たちは二つの事件を追ってることになるね。一つは本物のフェルナンドが殺された事件。そしてもう一つが偽物のフェルナンドが自殺した事件。普通に考えたら偽物のフェルナンドも殺されたのかな。自殺なんかじゃなくて」

クライゼンはそう言った。そして付け加えて

「とにかく本物のフェルナンドが本当に殺されたのかどうかを調べない事にはなんともね」と言った。

「以上が私の話です」

「これからどうするつもりだ?いつまでもここに隠れてるわけにはいかないからな」

アルドールがそう言うとガーゼルは微笑んで答えて。

「私は自首致します。おそらくC-TATによりフェルナンド殺害に関する記憶は全て改ざんされるでしょうが、アルドールさんとクライゼンさんが解決してくださることを信じてます」

そう言った彼女の瞳には亡きフェルナンドを思う寂しさが宿っていたのだった。

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