第17話
「この手紙を出したのはあなたか」
アルドールがそう言いながら、手紙をひらひらとさせてガーゼルに見せると彼女は頷いた。
「はい、その通りです。私がガーゼル・ダルケルト。その手紙をあなた方に送った者です」
「ようやく見つけたよ」
アルドールは安堵のため息をついた。これで今夜にはこの野菜だらけの街を出て、肉を口にできると胸をなでおろした。
「ここではなんなので、私の家まで来てくれませんか?ここからすぐ近くなので」
ガーゼルはそう言うと二人を自分の家へと案内した。彼女の家は教会から歩いて十分ほどのところにあり、木と石で出来た伝統建築だった。彼女の家すらもこの街の観光資源の一つのようだ。
中へ入るとガーゼルは二人を応接間へと通した。
アルドールとクライゼンは並んでソファーに座り、低いテーブルを挟んでガーゼルが腰掛けた。
「とりあえず自己紹介がまだだね。私はアルドール。そして隣にいるのがクライゼンだ。知っての通り私たちは旅人で、今はフェルナンドの自殺を調べる調査員をしている」
「ご丁寧にありがとうございます。アルドールさん、そしてクライゼンさん。まずはお二人に謝らなければいけないことがあります。もしかすると私と一緒にいることでお二人に迷惑‥‥‥いえ危害が及ぶかもしれません。さらに言えば、しばらくの間。私を守って欲しいのです」
「それはフェルナンドの自殺と関係があるのか?」
「おそらく」
アルドールが尋ねるとガーゼルは神妙な面持ちで頷いた。
「私が見たものは決して全てではありません。ごくごく一部でしょう。でもきっと重大な手掛かりになるのではと思います」
「もしかして命を狙われているの?」
「いえ。おそらく命を奪われるようなことはないでしょう。この国で犯罪は珍しいのでものすごく目立ちますから」
アルドールとクライゼンはここで初めて敵が存在する予感を感じ取った。ガーゼルを守れば、その敵とは確実に対立することになるだろう。そして敵の正体を知らない以上、刃を交えれば無駄な犠牲者を出すかもしれない。
だがだからといってここでガーゼルの持っている情報を手放す理由は無い。
「分かった。出来る限りは守る。少なくともあなたが持っている手がかりを全て聞き出すまでは」
アルドールがそう言うと、ガーゼルは満足そうに頷いた。
「それで結構です。フェルナンドが自殺した真相さえ暴ければ私はそれで良い。それではお話しします。あれは五年前の冬の夜でs‥‥‥」
ガーゼルが次の言葉を口から発しようとしたした途端、窓ガラスを突き破っていくつものの缶が投げ込まれた。缶は瞬く間に炸裂し、白い煙が家の中の隅々まで充満した。それは鎮圧用携帯兵器として知られる発煙弾だ。
そしてドアが蹴破られ何人もの足音と共に男のけたたましい怒声が響き渡る。
「警察だッ!!大人しく地面に伏せろッ!!!」
それはアルドールもクライゼンも予想だにしていなかった敵なのであった。
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