第16話

次の日、アルドールとクライゼンは”大聖堂”という名の教会をお昼前に訪れた。

目の前にしてみるとそれはもう小さな教会だ。周りは家屋で囲われており、地元だけで愛されたこじんまりとした教会という印象だ。

「どうしてここが大聖堂なんだか?」

アルドールがそう呟き、クライゼンが端末で確認するも地図上では確かに”大聖堂”という名前が付けられている。

「分からないけど、中に入ればきっと分かるよ」

クライゼンがそう言って、二人は教会の中へと入った。


中は木の良い香りが漂っており、丸い窓からは日光の眩い明かりが差し込んでいた。

「おはようございます。この教会に来客が来るなんて珍しいことだと思ってましたが‥‥‥」

そう言ったのはこの教会の神父らしき初老の男だった。白いあごひげと優しい目が特徴的な人だ。宗教用と思しきローブを羽織っており、二人が良く知る聖職者のイメージとぴったり合う恰好をしていた。

「ちょっとここに用事があってね。ここが大聖堂で合ってる?」

アルドールがそう言うと、神父は微笑んでいった。

「ええ。合っていますよ、ここが”大聖堂”です」

どうやらここが大聖堂で間違いはないようだ。しかし、そうだとすると疑問が残る。それはなぜ、こんな小さな教会が大聖堂と呼ばれているのかということだ。

クライゼンの好奇心は大きく、アルドールよりも先に口を開いた。

「どうしてここは”大聖堂”と呼ばれているのですか?その失礼かもしれませんが、大聖堂というのは大きさが足りないような気が‥‥‥」

「もっともな疑問ですね。お教えしましょう」

そう言うと神父は二人は手招くと、地下室へと案内した。

光りの届かない地下室にランプの光が灯った。

地下室にはこれといった物は置かれていなかったが、部屋の中心にはさらに地下へと続く鉄製の扉があった。

「これは?」

「これが大聖堂の正体です」

アルドールが尋ねると神父はそう答えた。

二人はこれにまだ分からないと言った様子だ。

「この扉は今は溶接されていて開きませんが、この先には地下へと続く梯子が掛かっています。その昔、まだこの国で戦争があった頃、連日続く爆撃から身を守りそして神に祈りを捧げるための場所として地下に巨大な空間が作られました。当時の人々はその空間を大聖堂と呼び、ここはその大聖堂へと続く出入口なのです」

「なるほど。それでこの教会の名前も大聖堂というわけだ」

これで大聖堂の謎は解けた。あとは手紙の送り主を待つだけだ。

「こんな小さな教会に来る観光客は殆どいないのですけれどね。一応、私はここの管理人なのですよ。服装自由の職場なので、一応神父の恰好をしているのですがね」

そう言って神父もとい管理人の男は笑った。

「あぁそういえば。五年前ほどですかね、あるカップルがよくこの教会に訪れていたのですよ。しばらく見ないなと思っていたら、つい三日前ほどからその女性の方が毎日来てくれるようになりましてね。いつも正午に来るんですよ」

神父が言い終わり三人が地上に戻ると、前から三列目の長椅子に一人の女性が聖書を手に座っていた。

彼女はアルドールとクライゼンの姿を見るとすっと立ち上がった。

「あなた方が旅人様たちですか?私はガーゼル・ダルケルト、手紙を送った者です」

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