一番星

レノが物心つく前から、スバルはずっとレノの傍にいた。


スバルがレノの傍にいた、というのは事実だ。だが、それは真実ではない。

正確に言えば、レノの傍にはスバルしかいなかったし、スバルの傍にはレノしかいなかった。二人には、お互いしかいなかったということだ。


レノが初めて話した言葉は「スバル」であり、にーにでもにぃでもなく、スバルはスバルだった。


温かい家で、二人は常に寄り添っていた。

スバルはレノに、あらゆることを教えてくれた。言葉も、計算も、料理も、人殺しも。

そしてレノは、現在のレノになったのだ。


レノは一度、スバルに自分が生まれる前のことを聞いたことがある。

ここにはたった二人しかいないけれど、レノの生まれる前には誰かがいたのかもしれない。

ほんの少しの好奇心。

でもスバルは、「忘れた」とだけ答えてあとはひたすらタバコを吸っていた。


その答えが本当か嘘か、見抜く力はレノにはない。なぜならレノは、スバルを丸ごと信じているからだ。

そして、ちょっとだけほっとしたのだ。

スバルの隣に別の誰かが立っている。そんなの許せない。


それほどまでにレノの世界はスバルで埋め尽くされていたし、それは不幸でもなんでもない、ただその辺に転がっている事実でしかなかったのだ。



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