第12話 いよいよ来るぞ

 久々にピンときた助手候補をリストで見かけ、面接の準備を整えた私は、楽しみにしながら研究所二階の面接フロアに移動した。

 時間五分前に定められたパーティションの扉を開けると、なにか不安そうな目をした、赤毛短髪の候補者が先に来て待っていた。

「こんにちは、そのまま座ったままでいいよ」

 私はソファから慌てた様子で、少し立ち上がりかけた相手に笑みを送った。

「あっ、分かりました。こんにちは、エリナ・フォートレスです」

 少し弱々しい声で、エリナが座ったままペコリと頭を下げた。

「スコーン・ゴブレットだよ、よろしく。さっそく、面接をはじめようか。錬金術が得意って珍しいね」

 私はそっと切り出した。

「はい、なにかを生み出すのが好きで、どんどんハマってしまって。先にお話ししておきますが、私はいわゆる生活魔法をいくつか使えるだけで、錬金術しか使えないと断言していいです。お役に立てそうですか?」

 エリナが苦笑した。

「もちろん。私も錬金術が好きで、色々と錬金術を駆使して機械を作って遊んでるよ。エリナだっけ。私が求めるのはそこなんだよ」

 私は笑った。

「えっ、錬金術がお好きなんですか?」

 エリナの目の色が変わった。

「うん、なんか面白いし。失われた技術、古いとか色々いわれてるけど、分かってないなぁって思うんだよ」

 私は笑った。

「あっ、やっと意気投合できそうな方にお会いできました。嬉しいです」

 エリナが笑った。

「なかなかいないでしょ。だから、錬金術に詳しい人材が欲しくてね。だけど、採用しちゃうとレベルゼロの縛りで窮屈になっちゃう。そこに拘らないなら、一緒に仕事したいな」

 私は笑みを浮かべた。

「はい、お仕事ができるなら、どこでも構わないです。本当に錬金術以外はダメですよ。それでよろしいなら、ぜひ」

 エリナが目を輝かせた。

「じゃあ決まりだね。採用」

 私はポケットから名刺を取りだし、裏にサインした。

「これが採用通知証だって分かってるよね。事務局で手続きしたら、明日から出勤して。申請したときに、事務から色々説明されると思うから、詳しくはそっちで聞いて」

 私は笑った。

「えっ、もう採用ですか。ビックリしました」

 エリナの目が丸くなった。

「うん、面接の予定を入れた時点で、ほぼ採用決定だから。第一助手のビスコッティには、私から話しを通しておくから安心して」

 ポカンとしているエリナを見て、私は笑った。

「わ、分かりました。それでは、明日からよろしくお願いします」

 エリナがペコリと頭を下げた。

「それじゃ、私は行くから、ちゃんと手続きしてね。よろしく」

 私はそう言い残し、パーティションから出た。

 そのまま自分の研究室に戻ると、ビスコッティが部屋の掃除をしていた。

「あっ、おかえりなさい。師匠、どこにいっていたんですか?」

 ビスコッティが笑った。

「うん、面接。喜べ、明日から後輩が出来るよ」

 私は笑った。

「えっ、ちょっと待って下さい。助手を増やしたんですか!?」

 ビスコッティが叫んだ。

「うん、錬金術が専門の変わった魔法使いでさ。機械を作る時に、いい刺激にならないかなって思って」

 私は笑った。

「なんで相談してくれないんですか。まさか、私はクビですか!?」

 ビスコッティが私の体をユサユサしながら怒鳴った。

「だから、後輩が出来るといったでしょ。助手が二人になるだけだよ」

 私は苦笑した。

「あっ、それならいいですよ。ビックリしました」

 ビスコッティが頭を掻いた。

「ちゃんと聞いてから動いてよ。まあ、いいや。名前はエリナ・フォートレス。資料だと二十二才だって」

 私は笑った。

「あっ、年下なんですね。仕事しやすそうです」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「うん、やりやすいでしょ。明日からくるから、ちゃんと指導してね。ちょうど休暇中だし」

 私は笑った。

「そうですね。残りの休暇三日間もあれば、一通りのここでのルールを教えられます。いつかは増員すると思っていましたが、ついにきましたか」

 ビスコッティが笑った。

「まあ、元々一人だけっておかしかったんだけどね。さて、そんな事より受け入れ準備しないと。使ってないロッカーを掃除して、白衣も何着かおいておこう」

 私は十人分用意されているロッカーの中で、使っていない一つの扉を開けた。

 埃がドバッと吐き出され、私は思わずくしゃみをしてしまった。

「師匠、掃除ついでに私がやりますよ。お茶でも飲んでいて下さい」

 ビスコッティの言葉を素直に受け取って、私は椅子に座った。

 ビスコッティが、倉庫から出しっぱなしにしていた掃除機のスイッチを入れ、ロッカーの中を掃除しはじめた。

 私はノートパソコンのディスプレイを開き、自分の研究室の名簿を呼び出して、正式にエリナ・フォートレスの名前が追記されている事を確認した。

「よし、三人になった。この研究室も、少し大きくなったね」

 実は、犬姉がいるので四人で、名簿にも記されているのだが、私はあえて伏せた。

 すぐに名簿を閉じ、私は研究所と専用回線で結ばれているネットワークを経由して、城にあるファイルサーバに接続した。

 これは、特にレベルゼロ研究者に向けたもので、正規のアカウントでログインしているので問題ない。

 私の個人フォルダには大量の開発品リストが保存されていて、それなりのアクセス権を持っていれば、誰でも閲覧可能な状態にしてある。

「えっと、面白そうな開発品があったかな。えっと…」

 まあ、要するに明日エリナに見せたい資料集めをしている。

 久々に見つけて、こんなの作ったっけというものや、現在設計図を引いている段階の最新モデルまで。

 私は無作為に百ほどのファイルを、手元のノートパソコンにコピーしてから、サーバからログアウトした。

「これでよし。明日が楽しみだな」

 私は笑った。

 その間にも、ビスコッティは掃除を終えて、寝室のクローゼットからクリーニング済みの白衣を持ち出して、掃除したばかりのロッカーに入れた。

「師匠、準備出来ましたよ」

 ビスコッティが報告してくれた。

「うん、こっちも大丈夫。これで、色々作った魔法道具のメンテをやってくれる人が増えたよ」

 私は笑った。

「師匠、どんな方なんですか?」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「赤髪短髪でいい感じだったよ。数分しか喋ってないから、まだどんな人かは分からないけどね」

 私は笑った。

「師匠、適当に面接しましたね。ダメです!」

 ビスコッティが、私の頭にゲンコツを落とした。

「適当だけど、いい加減じゃないからいいの。それより、歓迎会とかやっちゃう?」

 私は笑った。

 犬姉も混ぜてみようかと一瞬思ったが、陰で活動しにくくなるだろうし、嫌がりそうなのでやめておく事にした。

「そうですね、歓迎会をしましょうか。レストランの予約入れますか?」

 ビスコッティが笑顔で問いかけてきた。

「いや、あそこじゃ落ち着かないから嫌だよ。ここでいいじゃん」

 私は笑った。

「分かりました。では、ケータリングの手配をしておきます」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「うん、頼んだ。あっ、お酒飲めるか確認していなかったよ」

「はい、ノンアルのドリンクも十分用意しますよ。楽しくなってきましたね」

 ビスコッティが笑みを浮かべた。

「うん、いい感じだね。手配は任せたよ」

 私は笑った。


 時間は流れて晩メシの時間になり、私はビスコッティと一緒に食堂で済ませた。

 特になにもなく研究室に戻ると、いきなりやる事がなくなった私は、暇つぶしにギターを取りだし、即興で歌を作って歌ってみた。

「師匠、歌えたんですか?」

 ビスコッティが、ビックリした様子で問いかけてきた。

「うん、下手くそだけどね。この研究所に入ってすぐ砂漠の分所に配属されたんだけど、やる事がない時に練習したんだ。リズの歌も作ったし、ビスコッティの歌もある。恥ずかしいから、今は歌わないけど」

 私は笑った。

「えっ、歌って下さいよ。気になります」

 ビスコッティが、冷蔵庫を開けてみっちり詰まった缶ビールを一本取りだした。

「うん、いいけど。下手だから笑い飛ばして」

 私は笑って、ビスコッティの歌を歌った。

「師匠、私はビスコッティです。ブリュンヒルデではありませんよ!」

 ビスコッティが怒った。

「あのね、例えだって。ちゃんと、国語を勉強しなさい」

 私は笑った。

「えっ、そうなんですか。ブリュンヒルデってなんです?」

 ビスコッティがポカンとした。

「分からなきゃいいよ。ほら、歌って損した」

 私は苦笑した。

「いやその…」

 ビスコッティがなにか言いたそうだったが、結局言葉にならなかったようで、そのまま沈黙した。

「さて、気を取り直して。こんな歌どうかな…」

 私はあえて古代語に切り替え、アップテンポにギターをかき鳴らした。

「師匠、なんでいきなり古代語なんですか?」

 ビスコッティが問いかけてきた。

「気分の問題。深い意味はないよ」

 私は笑った。

 実は、これでもかというくらい、ビスコッティの悪口をねじ込んだのだが、ビスコッティは古代語が分からないので、言いたい放題である。

「そうですか。なにか、邪悪な気配を感じましたが、気のせいならいいです」

 ビスコッティが笑った。

「さて、あと一時間くらいしたら飲みに行こうか」

 私は笑った。


 私とビスコッティは酒場でお酒を飲んだあと、明日に備えて早めに休む事にした。

「ビスコッティ、明日はちょっと早めね」

 ベッドに転がり、私はビスコッティに声をかけた。

「はい、分かりました。おやすみなさい」

 ビスコッティが小さく笑い、部屋の調光装置のダイヤルを回して最低限の明るさにして、自分のベッドに転がった。

「さて、どんな人でしょうね。師匠が選んだというからには、変わり者だと思いますが」

 ビスコッティが笑った。

「まあ、錬金術が専門ってだけで、十分変わり種だからね。少し気弱な感じだったから、間違っても威嚇しないように」

 私は笑った。

「そんな事はしませんよ。先輩として、やる事はビシバシやりますけどね」

 ビスコッティが笑った。

「まあ、程ほどに。やり過ぎると、反発されちゃうからね」

 私は笑った。

 今まで表だった助手が、ビスコッティだけだったというのがおかしい。

 これで、少しはまともな研究室に見えるだろう。

「もちろん、やさしくしますよ。それにしても、錬金術ですか。師匠がたまになにかやっているのは見ますが、専門となるとひと味違うかもしれないですね」

 ビスコッティが笑った。

「それが狙いなんだよ。錬金術に明るい人なんていないし、このチャンスに手に入れないのは大損だからね」

 私は笑った。

 これで得意分野が魔法薬や回復系の魔法だったら、ビスコッティも露骨に対抗意識を燃やしてギクシャクした関係になってしまう可能性があるが、自分のテリトリーでぶつからないので、ビスコッティが暴れる心配はないはずだ。

「師匠に教わっているので、私も多少錬金術の知識はありますが、本職には勝てませんからね。私も楽しみなんです」

 ビスコッティが笑った。

「そうだね。私も教わる側になるはずだから、久々に知識欲がうずいているよ。楽しみ」

 私は小さく笑い、静かに目を閉じた。

 なんにしても、これまで続いてきた日常に変化がある。

 それだけに、今から楽しみだ。

 こうして、私は緩やかにやってきた睡魔に、素直に身を委ねたのだった。

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