第3話 手紙のなかみ

「今の音……りゅうにはだいじょうぶだったのかな?」

「だいじょうぶだよ! お祭りの音は魔法まほうで聞こえなくするって、打ち合わせでアザレイおにいちゃんが言ってたから!」

かった、さすがだね」

「カレンは秋祭りの打ち合わせに出たの~?」

「おかあさんのお手伝てつだいしないといけないから、出させてもらったの!」

「いいなぁ! わたくしも司教しきょう様たちとお話ししてみたいわ」

普段ふだんなら、図書室に行けば会えると思うよ?」

「いえその……会えれば話せるというわけでもないのよ」

「??」

 カレンは本気で分かっていないみたいだけど、ウルスラはアテッタに心の中でうなずいた。話す用事がないと司教しきょう様の邪魔じゃまにしかならないだろうし、けんばなしるとかそんなことする勇気ゆうきもない。ウルスラが気兼きがねなく声をかけられるのはセルシアおにいちゃんくらいだ。かれにだって、一人ひとりでヒマそうにしている時くらいしか話しかけようと思わない。セルシアおにいちゃんは手の空いている時たいてい歌っているから分かりやすかった。

「というか、二人ふたりとも。りゅうレースが始まっちゃいますよ。ここから観戦かんせんするんですか?」

「あっ、それなら屋根に行こう!」

 言うが早いか、カレンがウルスラとアテッタと手をつなぎ、魔法まほうでふわりとちゅういた。

「ちょっとカレン! わたくしスカートなのだけれど!」

「ブルマいてるから平気でしょ!」

「おおっぴらに言わないでよ!?」

「アテッタ、れましょう。ぼくれました」

「ウルにゃんが止めないと止まらないわよ、この子!」

 ウルスラはカレンの予告よこくなし予備よび動作なしの魔法まほうにもれてしまっていたので、アテッタがさわいでいるのが昔の自分を見ているようでなつかしかった。かんたんな魔法まほう得意とくい魔法まほうなら、ウルスラも呪文じゅもんなしで使えるが、カレンはその得意とくいのはばが子供こどもとは思えないくらい広い。呪文じゅもんなしで魔法まほうを使うということは、魔法まほうのはたらきをちゃんと想像そうぞうする力があるということだ。たくさん魔法まほうを使って加減かげんおぼえるのも大切だけど、才能さいのうもあるよね、とウルスラはあきらめていた。

「わあ、もう屋根の上も人がいっぱいだねー!」

「みんな考えることは一緒いっしょということかしら」

「そうですね……あ、でもあそこ、空いてますよ。ちょうどミーシリーがいます」

「じゃあ行こう!」

 カレンにぴゅーっとれられて三人は図書室とうの屋根にった。図書室とうには四階ての尖塔せんとうがあって、とんがり屋根にはすわりにくいからか、どうやらミーシリーしかいないようだ。あかがみ彼女かのじょまぶしそうに目を細めて銀縁ぎんぶちのメガネをげ、それからおどろいて見開いた。

「やっほー、ミーシリー!」

「カレン!? ど、どうしてここが分かったの!?」

「ウルスラが、あそこにミーシリーがいるよって教えてくれたの!」

「ウルスラさん……」

 ミーシリーは少し顔を赤らめてウルスラをにらんだ。ウルスラはにっこりしてみせた。

「だめでしたか?」

「っ、どうせあなたたちもりゅうレース目当てなんでしょ! わたしとなりにいてもいいけど、終わったらさっさとどこかへ行きなさいよね!」

「なに言ってんの~ミーシリーもウルにゃんがいるとうれしいくせに~!」

「そんなんじゃなーい! だれがこんなタレ目男子なんか!」

 アテッタにからかわれてミーシリーがムキになる。ミーシリーがそんな態度たいどなので、女子たちのあいだで彼女かのじょはウルスラのことがきなのだと思われているけれど、耳のいいウルスラはほんとうのことを知っている。ミーシリーがいちばんドキドキしている相手は、カレンだ。ウルスラはいつもカレンと一緒いっしょにいるから、まちがわれているだけ。でも、ミーシリーのためにカレンのとなりをゆずってやる気はしない。ウルスラは、ミーシリーの前ではことさら文句もんくのつけようがないかんぺきな男子としてふるまうように気をつけていた。

「ごめんなさい。ぼくがカレンに、ここに来ようって言ったんです。レースが終わったらすぐ移動いどうしますね」

「あっ……そうしてちょうだい!」

 ミーシリーはいじっぱりで、いちど言ったらみがつかなくなる子だ。彼女かのじょがすなおにカレンと一緒いっしょにいたいって言えないことは分かっていて、ウルスラはわざとその言葉に合わせる。すると、みんなからは「ミーシリーはウルスラがきなのでわざといじわるをしているけれど、ウルスラは気にせず彼女かのじょの言うとおりにしてしまう。ミーシリーってば不器用ぶきようね!」という見方をされるのだ。とうのカレンもどうやらそうおもんでいるらしい。それはウルスラにとっては好都合こうつごうだった。

「もー! ミーシリーはお祭りでもそんな態度たいどなの? ほら、このままだとすわれないからってほしいなー! ウルスラもそのポーチ前に回して……っていうかそれ、なんのもつ? おやつ?」

「そんな、カレンじゃないんだから。必要ひつようなもの入れてるだけだよ」

「むしろわたくしはカバンなしでているカレンにびっくりしてるわよ!?」

「お財布さいふは持ってるよ! でもそれでじゅうぶんじゃない?」

ぼくのは、お財布さいふ、ハンカチ、えのゴム、お手伝てつだいの時にかぶ帽子ぼうし、それから魔力まりょく切れの時用のお薬で……あ!」

 ウルスラはポーチの中身を出して見せ、手紙が入っていたことを思い出した。ついうっかり半分ほど外に出してしまって、女子たちが食いつく。

「えっ、なになに? 今のなに??」

「ウルにゃんのノート?」

「手紙に見えたような……?」

「もしかしてだれかへのラブレター!?」

「というかウルにゃんがもらったやつでは?」

かったじゃないウルスラさん、おしあわせにね」

「まだ開けてもないし中身がなにかなんて分かりませんよ……」

「えー! 読んでないの?」

「ねね、開けてほしいにゃー!」

「うーん……。開けるのはいいですけど、読ませるかはぼくが読んでから考えますよ?」

べつに、中身なんか興味きょうみないわよ」

「わたくしはあるの!」

 ウルスラはちらっと上空を確認かくにんした。りゅうたちはまだスタート地点にならんでいるとちゅうだ。すぐには始まらなさそうだから、を持たせるのにもちょうどいいか。

 差出人さしだしにんの名前は、やっぱり外側そとがわにはたらない。水色の上質じょうしつな紙、普通ふつうのペンで書いたような線。字はウルスラよりちょっと上手うまいかな。おとうさんがお仕事で書く字にてるけど、おとうさんはこんな手紙なんて書く人じゃない。とりあえず、開けてみようか。


『夜の神からウルスラへ。

 突然とつぜん手紙がとどいておどろかせてしまったね。でも、ちゃんと秋祭りの朝にとどくようにした。君が祭りまでに読んでくれることをねがう。

 カレンがあぶない。精霊せいれい暴走ぼうそうする。りゅうレースに気をつけて』


「……なに、これ?」

 ウルスラは二回読み返したものの、書いてあること以上いじょう情報じょうほうは読み取れなかった。

「なんで書いてあったのにゃ?」

 アテッタが目をかがやかせて聞いてくる。

「……うーん……ラブレターではありませんでした。カレンのこと、になるのかな」

「えっ、わたし?!」

「うん。読んでいいよ」

 ミーシリーに手紙をひったくられ、女子三人が頭をわせて手紙を読み出したのでウルスラは上を向いた。

「あっ……、もう時間だ!」

 ウルスラの声が、カラァンカラァンというかねおとにかき消される。何のヒントもなく気をつけてとだけ書かれていたりゅうレースが、始まってしまった!

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