第6話 犯人はどこだ?

 りゅうレースの結果けっかは、一気に海中まで突進とっしんして魔法まほうでウミウシを消しとばし、ちゃんと海水にれてゴールしたアザレイさんがみごといち。おとうさんがで、ガンホムさんはウミウシさわぎの最中さいちゅうにおとうさんにかれてしまっていたらしく三位さんいだった。

「あんないきおい、魔法まほう得意とくいなおにいちゃんじゃなきゃ死んでたよ……。来年もりゅうレースやるなら、考えなしに真似まねする人が出ないように、急降下きゅうこうかはさせないコースにしなきゃね……」

 まるで自分がりゅうレースの責任者せきにんしゃであるかのように顔をしかめるカレンを見ながら、ウルスラは正直ほっとしていた。精霊せいれい暴走ぼうそうするという手紙の内容ないようは本当だった。でも、カレンは今こうして無事ぶじでいる。あのままカレンが精霊せいれいたたかうことになっていたら、どうなっていただろうか。アザレイさんがやっつけてくれてかった。

 でも、どうして夜の神様と名乗なのだれかさんはウルスラに手紙をあてたのだろう。カレンにちょくせつ警告けいこくすればいいのに。男子りょうだれかなのだろうか? いや、男子りょうどころかりょうの外からでも、自由に手紙くらいやり取りできる。ウルスラをあいだにはさむ理由がない。

「……もしかして、ぼくにも本当はなにか、できることがあったのかな?」

「んー?」

 りゅうレースが終わったので、カレンとウルスラはミーシリーたちとわかれて屋台やたいを見て回っていた。

「手紙の話さ。カレンがあぶないって言えばぼくがなにかするんじゃないかって期待きたいして、手紙をぼくあてに出したんだと思う」

「んん……たしかに、なんでわたしあてじゃなかったんだろうね? というかわたしあぶないっていうより、あの大きさだとみんなあぶなかったよね!」

「それもそうか、なにかぼくが……のがしてる?」

 死んだはずの夜の神様からウルスラへの手紙。夜の神様がだれかに手紙を送ったという話は聞いたことがない。ウルスラに神様との接点せってんなんてひとつもない。どうして突然とつぜんこんなものが? なにかとんでもない大きな事件じけんがまだかくれているのではないだろうか。そして、ウルスラが頑張がんばらないといけなかったのではないだろうか。

 突然とつぜんあらわれたウミウシ。神様は、それをけんして……それとも、出てくることを知っていた? もしかしてあの精霊せいれいは、だれかがした?

「カレン、ごめんちょっとってくれるかな」

「いいよー!」

 ウルスラの相棒あいぼうは、なにも説明せつめいしなくてもうなずいてくれる。

「ありがとう、気になることがあってね。なるべくウミウシが出てきたところの近くまで行きたいんだ」

「分かった!」

 言うが早いか、カレンはウルスラの手を取って上空へとした。

 学園の立つえだの先が海にしずむところまで近づく。つのはあぶないかもしれないから、カレンに上空じょうくうで止まってもらい、ウルスラはじっと耳をませた。

 いろんな人の声がする。レースの結果けっか興奮こうふんする声、屋台やたいごえ、けんかの声、なごやかにわらう声、子が親をさがしてさけぶ声……。

 こまったな、何を聞けばいいのか分からない。でも、わるだくみはこんなに大きい声ではやらないはずだ。

「……カレン。精霊せいれいすのって、カレンとサレイさん以外いがいだれができる?」

「えっ……と、あとは神様と司教しきょう様くらいかなぁ……。でも、もし精霊せいれいに気に入られちゃってたら、だれでもできるよ!」

「っていうのを知ってる人はいると思う?」

「え、どうだろ。精霊せいれい愛好会あいこうかいの人たちが熱心ねっしんにおかあさんのところに精霊せいれいの話を聞きにてたから、その人たちなら?」

「学生……そんで、精霊せいれいに気に入られてるかもしれない……うん、ヒントになった、ありがとう」

「どったまして!」

 ということは犯人はんにんは今ごろきっと、精霊せいれいのことが心配で海まで行ってるにちがいない。

「いた、あの人だ……! カレン、桟橋さんばしのとこにいる男の人のとこに行って! あの、学園のローブを着たあおがみの人!」

「おっけー!」

 ウルスラはカレンに運ばれて桟橋さんばしった。カレンがそのままち、男の人をはさんで反対がわに着地する。はさみうちだ。

「あの、すみません。……ダープレット先輩せんぱい、ですね」

 ウルスラが声をかけると、男の人はびっくりしたようすでウルスラを見た。

「えっ、なんでおれの名前を……? ああ、君はあのヽヽウルスラ君か。どうかしたの?」

 あの、ってどういう意味だろうな。あんまりいい意味じゃない気しかしない。ウルスラは奥歯おくばをきゅっとんだ。

先輩せんぱい、さっきのウミウシさわぎは、先輩せんぱいのしわざですね」

「……どうしてそう思うんだい?」

 先輩せんぱいの声の色がわる。あばれられるかもしれない。ウルスラはポーチに片手かたてんで、まるでなにかふだがあるかのように強気の顔をしてみせた。

「今先輩せんぱいが手のひらに乗せている、その子。その小さいウミウシが、さっき巨大きょだい化してたんじゃないですか?」

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