神々の黄昏

アクリル板W

第1話


高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない――

アーサー・C・クラーク



………………………………



 2325年、人類史は黄昏のときを迎えていた。


 科学の進歩は文明を発展させ、社会に幸福と安定をもたらす――そんな幻想が打ち砕かれたのはいつの頃か。


 環境破壊、異常気象​、人口爆発、食料危機、資源枯渇……、人類はどこで道を誤ってしまったのだろうか。


 しかし、生物には先へ進み続けるという原罪、DNAに刻まれた魂の記憶プログラムがある。創世記から五度に渡る大量絶滅を経て誕生したのが人類であるならば、その結末もまた必然であったのかも知れない。


 21世紀が終わりを迎える頃には、既に地球は人類の営みを支えることが出来なくなっていた。


 神の領域にまで達したとうそぶかれた叡知をもってしても、地球環境を元の状態へと戻すことは叶わず、人類に残された選択肢は大きく三つに限られていた。


 まず一つ目は、更に先へと進み続けること……宇宙への進出である。


 しかし、宇宙開発技術はある段階から頭打ちとなっており、居住可能なハビタブルゾーンを持つ惑星系まで移動する手段を確立できてはいなかった。


 それでも種としての人類を存続させるべく、東西の大国が主導する多国家間プロジェクト、太陽系外脱出計画『エクソダス』は実行された。


 遺伝的多様性に基づき選抜された(とされる)人々は、五隻の超大型宇宙船と随伴船からなる大船団によって地球を出航し、遥か彼方にある居住可能惑星を目指して旅を続けている。


 果たして、彼ら――いや、百年単位の航海ゆえにその子孫たちとなるか――は無事に辿り着けるのだろうか。それはもはや我々には関知できないことである。


 次に二つ目は、過ぎ去りしあとへと戻ること……荒廃した地球環境との共生であった。18世紀のイギリスに端を発した産業革命以前への回帰運動『レコンキスタ』である。


 しかし、これには各国の足並みはまるで揃わなかった。現実に目を閉ざし依然として発展を諦めない者、逆に旧石器時代の原始社会を希求する者など、それらの対立はやがて深刻化し、残された時間を自ら早める結果となった。


 最後の世界大戦を生き残った人類は各地に都市国家ポリスを設立し、自給自足の独立した社会を形成している。


 過去の確執から相互間の連絡は最小限、或いは拒絶状態にあり、また強固な内部統制により管理されているため、正確な規模や人数を伺い知ることは出来ない。


 中には運営に行き詰まり自然消滅したり、腐敗と闘争により自滅したりした都市もあるとされるが、その詳細は不明である。


 そして、人類が選択した三つ目の道。先へ進むのではなく、後へと戻るのでもなく、しかして今に留まるのでもなく。全く新しい人類の生存圏。


『レイ、また日本の総理大臣から陳情が来てるわよ』


「はぁ、またかよ。ロザリー、代わりに応対しといてくれ」


 少し思案が過ぎたようだ。俺はホログラムの彼女に投げやりな返事をすると、さも忙しそうに手元にある端末を叩き始める。


 2325年現在、人類が最も多く住まう場所――そこは量子コンピューターの造り出した仮想空間である。

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