第2話


 精神はどこへ宿るのか、人類は再びその問いに向き合うこととなる。


 古くは心臓か脳かで論争があり、科学的には脳内の生体電位による回路と結論付けられたが、それは数百年の時を経て覆された。


 地球環境が悪化する一方、個人を保護・保全しようという動きが富裕層を中心として高まり、人の精神を電子的に解析しようという試みがなされた。


 なお、生体としての情報であるDNAの解析は21世紀には完了しており、クローン技術も早期に実現していた。


 しかし、結局のところクローンは遺伝子が同一なだけの存在であり、人格や記憶はもちろん発生後に獲得した形質も異なってくる。


 一卵性双生児が独立した個々の人間であると認知されているように、クローンもまた本人ではないということだ。


 そこで精神を複製し、クローンに宿らせるという研究が進められた。その第一歩が、脳内の生体電位回路の解析と保存である。


 その結果、信じられない現象が起こった。被験者の精神を完全に読み取り、量子コンピューターに電子情報として複製した瞬間、意識を消失したのである。


 病院に搬送されるまでもなく、既に被験者の脳内の活動電位は失われており、程なくして死亡が確認された。


 一方で、コンピューターに保存された被験者の精神は、研究者が驚くほど完璧に確立されており、音声による会話すらも可能な状態であった。


 被験者によれば、実験開始直後に目の前が真っ暗となり、気が付いたらこの状態であったと言う。そこは試験用にコンピューター内に作られた仮想空間であり、後に居住地として情報が追加されていった。


 被験者との長時間による対話を経て、科学者はある仮説を提唱した。被験者の精神は肉体を離れコンピューターに宿り、今もなお生きているのだと。


 精神が宿る場所。それは心臓でも脳でもなく、唯一無二の魂にある。

 

 それを証明するかのように、以降の被験者も同様の結末を辿った。一時は非人道的であると実験中止も叫ばれたが、世界中に不安と閉塞感が漂う中、それはある種の救済であると考えられるようになった。


 量子コンピューターに保存されたデータが失われない限り、その魂は永久に不滅なのである。それは人類の永遠の夢であった不老不死が図らずも実現した瞬間であった。


 そして、DNA情報を元にして人工的に作り出した核を未受精卵に植え付けてクローンを作り、さらに精神を固着させて完全なる本人の複製を生み出すことにも成功する。


 こうして、生体と精神の両方をデータ化し、必要に応じて現実世界に再誕させる技術が確立された。


 これをもって、人類種を保全する新プロジェクト『デマルカシオン』が発令され、その志願者は日を追うごとに増していった。


 厳しく希望のない現実から逃れ、また戻れる手段もあるとならば、むしろ死から遠ざかる行為であると認知されたのである。


 もちろん、地球環境と社会資源の負荷を減らすため、人口の縮小を目論む各国政府の思惑があったことは否定できない。


 しかし、降って湧いたような希望に縋るほど人々は追い詰められており、また残された者たちが世界大戦により自滅、或いは都市国家への隷属を余儀なくされたとあらば、果たしてどちらが正しい選択であったかは容易に断じれないだろう。

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