第32話 帰り際で
浄化した汚染領域の最端を一直線に極大魔法で破砕しながら、アウレーリアはルブアルハリの首都へと飛んでいた。
わき目もふらず一直線に道を作って行けば、呆気なく首都に辿り着いた。
幾度となく頭の中で思案したルートだ。それが役に立って道中に障害らしい障害もなくたどり着くことができた。
「ここがルブアルハリの首都ね」
ルブアルハリ首都。城壁のない砂漠の都市。
かつては栄華を誇った絢爛豪華な宮殿も、活気であふれる喧騒の
アウレーリアにとっては見慣れた魔力汚染都市でしかない。マルテはこの都市に何を見たのだろうか。
「帰ってきたら聞きましょう。まずはここ全部、消し飛ばしてから」
どうせマルテに当たったところでダメージは全て自分に来るのだし、その方が見つけやすいとばかりに極大魔法を放つ。
天から白雷を降らせ都市を白光に帰すとはこのことで、都市のあらゆる全ては灰と化す。
かつての都市は既になく、巨大なクレーターが出来上がった。
「さて、マルテはどこかしら。ダメージが来てないってことはここにいないか、当たらない場所にいたってことだけれど――ん、あれは?」
クレーターの中心に球体があった。
漆黒の泥で作られたかのような球体。極大魔法を受けてなおその姿を保っていることに驚くが、それ以上に興味が勝る。
「これ、魔力汚染の原因とは違うわよね」
ダンジョンコアとは違うものであると、アウレーリアは一目見ればわかる。
だから、これは別のものであり、マルテが持つペンダントとのつながりはこの中に繋がっている。
「触ったらやばそう。触ろっと」
触れた瞬間、指先から汚染が走った。
「っ!」
咄嗟に触れた端から腕の半ばまで上がった汚染された魔力を腕ごと切り落とす。
ごろごろと転がった腕に魔法を当てて消し飛ばしてアウレーリアは、すぐに球体から離れた。
「うわ、これは酷い。こんな中にいけるのマルテだけでしょう」
これは汚染された魔力の塊だ。
何がどうしてこうなったのかはわからないが、魔力を視ることのできる眼を持つアウレーリアでなくとも見ることができるほど魔力密度を持っている汚染の泥である。
見たところによれば、何か穴のようなものにその泥が吸い込まれ、泥自体がそれに抵抗した結果できあがったようである。
本当に何があったのか。
この魔力密度はその昔、ウーテロを一人で使おうとした時に見た婚姻と出産の女神ノッツェパルトと同じくらいだ。
「もしかして邪神でも降臨してた? まさかね?」
しかし、ルブアルハリほど長期間魔力汚染が放置されたことはない。
邪神の呪いと呼ばれている魔力汚染の中心となれば、邪神でも降臨してもおかしくはないのかもしれない。
だとしてもここにマルテがいるというのならば、なんとかして助けたいものだとアウレーリアは考えていた。
ぜひとも体験したことを聞いて魔力汚染をどうにかできる糸口を掴みたい。
「うーん」
回復魔法で腕を生やしながら、球体を見据える。
マルテは間違いなくこの中にいる。
それはアウレーリアの目が証明している。
「とりあえず手を突っ込むにしても、無策でやると汚染がすぐに広がるから、結界五百層くらいでなんとかならないかな?」
自分の腕をちぎって、それに五百層の結界を重ねる。ありったけの魔力を込めているため、またも身体が灰化してぱらぱらと砂地に散っていく。
結界の端から汚染されるが、中に到達するまでは時間がかかるはずだと見込んで、その間にマルテを見つけるか何かしらの手がかりを探すのだから灰化できついなどといっていられない。
「それにいつもやってることね」
腕にはか細い魔力の糸を結界で包んで繋げて操れるようにして、即席の棒を作る。
これを投げ込んであとは出たとこ勝負である。
実にいつも通りで楽しくなってきたとすらアウレーリアは笑みを浮かべる。
「じゃあ、これで」
マルテがいたら、何やってるんですかと怒られそうな手口であるが、ここには誰も咎める人はいないのだからアウレーリアは気にしない。
もっとも咎める人がいたところで気にしないのがアウレーリアである。
えーいと、軽い掛け声とともにアウレーリアは、千切った腕を球体の中へと投げ込んだ。
魔力操作で投げ込んだ腕に目を形成して、暗がりの中を見る。
魔力の奔流だ。
時の属性の魔力が嵐のように吹きすさんでいる。ここに無策で飛び込んだ場合、即座に人は時が数千倍の速度で流れて白骨化するだろう。
また汚染された魔力は、どうやら球体だけのようで中は汚染されてはいないようだった。
「結界を張ってて良かったわ。とりあえず時の魔力で中和して……良しっと」
魔力で中和すればただただ冷たい魔力が渦巻いている空間となる。
それにアウレーリアは覚えがあった。
「これ冥界への通じる道じゃない? 神話の時代にそんなのがあったって聞いたけど、これそうみたいね。こんなところでマルテは何をしているのかしら」
ペンダントへ繋がる自らの魔力と結界を操って推進力として空間を進む。
時の魔力の中にいれば、老衰で死んでいてもおかしくなく、ペンダントだって朽ちている可能性はある。
さて、本当に生きているのかどうかと、棒を押し進めているとふと白い何かが見えた。
「あれね。おーい、マルテ?」
そちらへ近づくと座りこんでいるマルテを見つけた。
マルテも近づいてくる腕に気が付いたようだった。
当然。
「うわあああ、手、腕!?!?!? 目がある!? なにこれ!?」
飛び上がらんばかりに驚いていた。
元気そうで何よりだとアウレーリアは思った。
「え、ファーレ様、これ大丈夫な奴ですか!? あれ、ファーレ様!? いなくなってる!? どうして!? え、クールに去る!? どういうことなんですか!?」
「元気そうね、マルテ」
「あ、その声はアウレーリアさん? え、これ幻覚ですか? 気持ち悪い腕からアウレーリアさんの声がするんですけど」
「なんだか、胸のところがムカってしたんだけど。それ、わたしの千切ったばかりの腕なんだけど」
「え゛ な、なにやってるんですか!? 千切った!? そんな無茶をどうして……いえ、アウレーリアさんにとっては普通でしたね……」
「わかったのならいいわ。迎えに来てあげたのだから、さっさと帰りましょう」
「迎えに……? あ、そうか。あたしが研究対象だからですよね」
その通りであったが、アウレーリアはどうにもそれをそのまま認めるのはどうにも胸のところがざわざわして落ち着かない気分になる。
「別に、それだけじゃないんだけどね」
「え?」
どこか憤然となりながらも汚染されていく結界魔力を視てこれらは全て後回しにすべきだと優先順位を切り替えた。
「……まあいいわ。とにかく帰って来なさい」
「あ、はい。でもどうやって?」
「引っ張り上げるから掴んで?」
あまり掴みたくはない見た目の腕だが、これで帰れるとなれば掴めるというもの。
ぎゅっと掴めば驚くような速度で引かれる。
これで帰られると安堵したところで。
『まテ』
逃がすわけないだろうと追う泥があった。
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