第22話 大南壁防衛戦
通信魔法による伝達は何よりも早い。今、すぐに向かえばまだ瀬戸際で間に合う。
故に連れて行くべきを連れて行く。
「マルテ。あなたはカスカータ子爵とともに来なさい」
「は、はい」
「魔法団を借りていくわ。良いわね、カスカータ子爵」
「ああ、こちらは備蓄している灰石とともに騎士団と行く。足りればいいが」
マルテをカスカータ子爵に任せ、アウレーリアはディアマンテへとセッカ、ニコレッタとともに戻り、バッソフォンド伯爵軍を全員、連れて大南壁へと転移した。
それだけでなく、各地方へと飛び、魔法団を全員連れて大南壁へと連れ込んだ。
「極大雷魔法【ケラウノス・ブロンテース】」
さらに極大魔法を行使。
魔力の大半を注ぎこみ、国境上の穴、三十箇所全てに殺到していた汚染獣と汚染そのものを薙ぎ払う。
「各地の魔法団はすぐに守備隊の援護に回りなさい!」
セッカが指示を出し、連れてこられた魔法団は迅速に動き始める。
百人が集い、極大魔法を放ち始めれば一旦は、汚染をとどめることができた。
「ふぅ……さてと、わたしは汚染獣の数を減らそうかしらね」
「ちょっと飛ばし過ぎよ。いくらアンタでも魔力持たないでしょう」
「ああ、大丈夫。この日の為に十年溜めて来たし」
アウレーリアは杖を取り出す。
杖についている結晶はアウレーリアの魔力を溜めている。
その日に使わなかった魔力全てを結晶に注いできた。
十年も溜め続けて来た魔力だ。むしろ使い切れないくらいあると言っても良いだろう。今のところは。
「それでも身体の方が持たないでしょうが」
「わたしの身体で済むなら安いでしょう? どうせ治せるのだし」
ぱらぱらとアウレーリアの指先が灰化している。
己を構成する魔力の一部を完全に使い切ったことで身体が灰化しているのだ。
全ての構成魔力を使い切れば、完全に死ぬ。
「さっきので自前の空間と雷の魔力は使い切ったから次は炎かしらね。で、神聖魔力以外を使い切ったら補充してまたやる、完璧ね」
「どこがよ!! 死ぬ一歩手前でしょうが!」
「大丈夫、わたしは天才だからね。ほらほら、ニコも持ち場に行く。雷だけだけど、個人で極大魔法を使えるんだから、働かないと」
「ああもう!」
アウレーリアはニコレッタが持ち場に走っていくのを見送って、城壁の縁に立つ。
穴は三十箇所。
それもかなり大きな道が穿たれてしまっている。
点在する穴は、灰で修復しなければ意味がない。
下手に土壁でも作ろうものなら即座に汚染されて良い様に利用されてしまうから、犠牲覚悟で結界でふさぐ以外に今は対処がない。
常に極大魔法を撃ち続け、相手を遠ざけ続けるしかない。
灰は魔力がないため転移させられない。
今、王都とカスカータ子爵の騎士団が灰を加工した灰石を運んでいるはずだ。どれほど急いだとして一か月はかかるだろう。
近場の都市の灰は全て大南壁の補修などに使われていて備蓄は残らない。ただでさえ長大な壁だ。
南部の灰はほぼ使い切られていて他の場所から持ってくるしかないのが現状だ。
バッソフォンド伯爵とカスカータ子爵が動いてくれているのはアウレーリアもわかっているが、他の貴族がどれほど動いているかはわからない。
北部の貴族は動いてないだろうなと思っている。
「まあ、今はここを安定させることか」
魔法団を連れてきて各所に配置しているが、それだっていつまでも持つというものではないのだ。
百人で撃てるようにした極大魔法も、一般的な魔法団であれば十回ほど打てれば良い方だ。
だからここを支えるならアウレーリアが誰よりも前に行くしかない。
「だって、天才だからね」
杖を構えて呪文を詠唱する。
「『火の神カルド』『三つ頭の怪物』『槌振るう者』『裏切りて英雄に告げよ』『命じられて主に捧げよ』」
詠唱の度、魔力が熱となって周囲の温度を上げていく。
極大魔法をただ一発使うにはあまりにも過剰すぎる魔力は、ここが灰の長城でなければ周辺一帯を燃やし溶かしてしまっていたに違いない。
「『双子を産みて大地を割れ』『頭を割りて子を産み落とせ』『それは決して弱まらぬ炎なり』『永劫を生きる炎なり』『我が杖先にて示せ』――」
普段ならば詠唱の短縮をするところであるが、威力と範囲を削らずに行使するため完全に詠唱された呪文。
大気の魔力を震わせ、彼女の周りに可視化するほど濃密なそれへと練り上げられる。
「――極大炎魔法【クレスニク・ヴェルブティ】」
放たれたのは炎そのもの。
意思持つ炎の巨神が現れ、魔力汚染の只中へと入っていく。
極大魔法十回分の炎の魔力を枯渇させてまで放った巨神は近づく汚染獣全てを燃やし尽くし、大地を割り、巨大な掘りを作り上げる。
「……ああ、寒い」
自身に内在する炎の魔力を使い切った。
体温を司っていた魔力が消えたことで、彼女から熱は失われた。
「氷を張れば寒さ感じなくなるから、マシになるかな」
パラパラと自らの灰化を起こしながらアウレーリアは笑う。
なんだ、久しぶりにやったがこの程度か。
むしろ自身の成長を実感するというものだった。
十年前は、たった一度の極大魔法の行使でもこの様だったのだから、三発も使えるようになったのなら重畳。
きちんと自分はまだ前を進めているのだという事実に安堵しながら、アウレーリアは再び呪文を詠唱する。
「さあ、次――『冬と夜の女王よ』『翼あるものの声を聴け』『我らは冬を告げる風』『我らは黄昏を呼ぶ風』『我らは終末を運ぶ風』」
詠唱の度、周囲の温度が下がり彼女の吐く息は白く染まり、周囲が凍り付く。
吹き荒れる暴風は、傍に近寄るだけであらゆる全てを凍り付かせる冷徹なる魔力の奔流。
「『命』『雪』『氷』『地獄の奈落で凍りつけ』『地上の深淵で時を見よ』『我が杖先にて示せ』――極大氷魔法【アクィロン・ムーロ】」
発動する魔法。
氷が堀を埋め、立ちはだかるように壁が立ち上る。
氷は灰には劣るものの内在魔力が少なく、汚染に対する耐性が高い。
極大魔法で出したものは魔力を含むから、北部凍土の氷よりも耐性は低くなっているが、そのぶん冷気をまき散らし、近づく汚染獣を阻んでくれる。
「南部って温かいけど、これならしばらくはもつでしょ。はー、疲れる」
各所でも極大魔法が吹き荒れて次から次へと殺到してくる汚染獣と大地の汚染を吹き飛ばしている。
しばらくはもつだろう。
しかし、いつまで?
「ああ、また厄介そうなのが来た」
突破できないことに業を煮やしたのだろうか。
再び汚染獣が集まり一つの形を成そうとしていた。
「なるほど、アレに壊されたのか。それにしたって、汚染獣がこんな動きをするなんておかしいわね。十年で何かあった?」
立ち上がり、影を落とす巨大汚染獣に杖先を向ける。
「考えるのは終わった後で良いか」
ふっと笑って打ち抜くための魔法を練り上げる。
灰がぱらぱらと落ちていく――。
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