第6話 調査のために子作りします
神を奉る教会は都市によっていくつもあり、また様々だ。
神の影響範囲によってある都市にはあり、別の都市にはない教会などもあったりする。
そんな中で、必ずどの都市にもある教会がある。
この世界の全てのものを創造したとされる創造神ファーレ。
この世界を照らす天空神チェーロ。
次期王や貴族の後継者、大店の跡取りと言った後継の選定を行う選定の女神シェリエレ。
それから婚姻と出産の女神ノッツェパルト。
ディアマンテにももちろんこの四教会は存在しており、アウレーリアに連れられてマルテがやってきたのがノッツェパルトを奉じる教会である。
カテドラーレ区のクローチェ通りにその教会はあり、ちょうどマルテがどぶさらいをしたのがその教会の前である。
「おや、マルテじゃないかい。あんた、ドラゴンに襲われたんだって? 大丈夫かい?」
依頼をしてくれた老齢のシスターが出迎えてくれる。
「はい、大丈夫です!」
「そうかい。そっちの綺麗なお嬢さんは?」
「ええと」
なんて説明したらいいのだろうかマルテが迷っている間に、アウレーリアは躊躇いなくつかつかと教会の中へ入って爆裂魔法のような言葉を言い放った。
「ウーテロを使いに来たの」
「おやまぁ。まあまあまあ!」
花開いたかのように綻ぶ老シスターの表情。おめでたいことがあったと言わんばかり。
あるいは噂好きのおばちゃんが、大好物の恋のお話を聞きつけたかのような顔となる。
絶対に後者で面白がっているに違いないとマルテは顔を引きつらせる。
「私知らなかったわ、マルテにこーんな綺麗な恋人がいただなんて! ええ、ええノッツェパルト様もきっと祝福してくださるわ」
「え、いやちがっ!?」
「違くないわよ、使うもの」
「ふふふ。わかるわ、わたしもね。出産の前は緊張したもの。大丈夫、怖くないわ」
「ち、ちがくてぇ……」
盛大に勘違いされているが、アウレーリアは訂正しないし、老シスターは昔を思い出したのかうきうきと鼻歌交じりに準備に奥へと引っ込んでしまった。
「な、なんであんなこと言うんですか!」
「え? 事実しか言ってないじゃない」
「でもで、でも勘違いされちゃったじゃないですか!」
「わからないわね。勘違いって?」
「あ、あたしと、そのこ、こここいびとだと思われたり、あなたが…………あれ、そういえばあたし、あなたの名前知らないです」
「そうね、わたしもあなたの名前知らないわ」
「す、すすす、すみません! あたしったら名乗りもしないで! えと、えっとあたしはマルテといいます。E級冒険者です」
「アウレーリア・アルキミスタ、ソルレカランテ王国筆頭魔法使いよ。好きに呼んで、わたしは気にしないわ」
「へぇ、アウレーリアさんって言うんですか。それに筆頭魔法使いってとってもすごそ……王国筆頭魔法使い!?」
すごい魔法使いだとは思っていたが、まさかこの王国で最も偉大で最も強いと言われている人だとは思っていなかったマルテは飛び上がって喜んでしまう。
「あ、あわ、あわわ。ごごごご、御無礼をををを」
即座に平身低頭するマルテを不思議そうに見る。
「なにが?」
「だ、だって、あたし、筆頭魔法使い様と普通に話しちゃってぇ」
「わたしは気にしていないし、どうでもいいの。今は、あなたのことを調べる方が大事だから」
「ですけど……って、そうだった。ほ、ほほほ、本当につ、作るんですか、こ、子供……」
「作れるかどうかの実験。作れるならどんな子になるのかも調べられるけど、たぶん作れないんじゃないかしら」
「そ、そうですね……はい。そういえばそんなこと言われたんでした……」
「でもわたし、自分で確かめてみるまで信じないし、神器がどんな挙動をするのかも調査対象よ」
「なんだか、すごく罰当たりなことしているような気がしてきました」
「何が心配なの? わからないわね。大丈夫よ、だってわたしたち天才だから」
「あたしはちがいますぅ……」
そんな話をしている間に老シスターが戻ってきて、二人は神器の間へと案内される。
あとはお若いお二人でなどといって老シスターは退散していき、神器の間にはマルテとアウレーリアの二人が残された。
「これが神器ウーテロ……」
厳かで、まさに神域や聖域を思わせる広間にそれは鎮座していた。
女神ノッツェパルトが人々に授けたという最も数の多い神器ウーテロ。
煌めく結晶が逆さまになった涙滴形をしている。
上の方は丸みを帯びて広がっていて下に向かっていくほどに細くなっていた。
神器自体は空洞で透明なガラスのようなものが張られていて中を見ることができる。今はまだ空っぽだ。
また神器上部には、両側に球体のついた天秤のようなものがある。二人の人が立つ位置それぞれに秤の皿部分である球体が降りてきていた。
目の前にすると否応なく神様が作り出したものであると強烈に意識させられる。
神の工匠に最も近いとされているドワーフの職人であっても、これほど美しく精緻なものは作り出せないだろう。
エルフの細工師がどれほどの年月をかけようとも、表面の黄金の細工の一つも真似することすらできないのではないかとすら。
ただただ圧倒させられて、マルテは委縮して身体ががちがちになってしまう。
そんな彼女とは対照的にアウレーリアは、気楽なものだった。
「久しぶりに見るわね。昔、一人で使おうとして神父様に止められたっけ、死ぬからやめろって」
「へ、へぇ……それは大変でした、ね?」
「一応、あなたの緊張をほぐす冗談だったのだけれど」
「す、すみません……」
「良いわ。さっさと済ませてしまいましょう。結果は、わかりきっているけれど」
アウレーリアは左側の新婦の位置に、マルテは右側の新郎の位置に立つ。
これは適当に選んだわけではなく、新婦が先に注ぐのが決まりだからである。
戦が頻繁に行われていた時代には出産の儀を行う花嫁を攫おうとする悪党が多くいた。
その悪党から花嫁を守るために魔力を温存しておかなければならない新郎側の方が、新婦よりも後に注ぐようになったのだ。
今回はアウレーリアが先に魔力を注ぎたかったため、新婦側に立ったということだ。
「それじゃあ、魔力を注ぐわね」
球体に手を掲げるとアウレーリアの側が輝きはじめ、彼女の魔力がウーテロへと注がれていく。
紫色に輝く彼女の固有の魔力は、どこまでも大きく深く雄大で澄んでいた。
注がれた魔力はウーテロ中央の装置に溜まっていく。装置の半分に紫色の魔力が充填されている。
マルテは思わず見とれてしまっていて、終わったのに気が付かなかった。
「マルテ。次はあなたよ」
「あっ、は、はは、はい!」
球体へと手を掲げて、むむむと唸る。
もちろん魔力のないマルテが魔力を注げるわけもなく、ウーテロはうんともすんとも言わない。
それどころか――。
『その者には魔力がない。故に子供は作れない』
ウーテロから神言が表示される。
「……だめ、みたいです」
できないことはわかっていたが、もしかしたらと思わなかったわけではない。
もちろんここで子供ができてしまったら困ってしまうのだが、それでも自分は一人家族もできずに孤独に生きるしかないのだなと突きつけられてマルテは落ち込んだ。
「本当にまったくこれっぽっちもないのね」
アウレーリアが注いだ魔力はウーテロの中に吸収されて消えていく。
「すみません……」
「いいわ。半分消費したところで、他の王宮魔法使いよりも魔力多いから。それに魔力なんて寝れば回復する。謝る前に一歩前進したことを喜びなさい」
「前進って……」
「あなたが本当に魔力がないことを神が証明した。これは大きな一歩よ。あなたは正しく魔力がない素晴らしい人間ということ」
「…………」
「わかったのなら、次に行くわよ」
「ええと、次って」
そう話しながらノッツェパルトの教会を出たところ二人の前に貴族の馬車が止まった。
「まったく。報告もせずに何をしているのですか、心なき魔女殿」
「あら、奇遇ね。セッカ・バッソフォンド伯爵、クレタ以来かしら」
ひげを生やし赤みを帯びた紫色の瞳をした赤髪のクレタの時の指揮官が馬車から降りて来た。
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