②ワタシ(アナタ)_その義務

 ワタシは歯磨きを、食事の前にすると決めている。それは、歯磨きを一個の儀式と捉えているわけでも、自分の気持ちよさのためにやっているわけでもない。

 ワタシには義務が必要なのだ。ワタシは、何か強いられることが必要なのだ。

 しかし不本意でもある。それは、ワタシはワタシに自らが食事の前に歯磨きをすることを強いているからである。本当は、ワタシは誰からというわけでもなく、ただただ義務を課せられなければならない。他人からもワタシ自身からも、自然からも、世界からも、何からも強いられるべきではない。ワタシにそれを強いているモノが在ってはならない。

 ただただ課せられる何かが必要であるのだ。それこそが真の義務である。

 ワタシは未だ、義務を課せられてはいない。焦がれるほど待ち望んでいるというのに、一向に義務が課せられることはない。だからワタシは耐え切れずに、義務なしに耐え切れずに、自らに食事の前に歯を磨くことを強いてみているのだ。無意味な強要である。

 せめて他者からの強要を受けたい。

 そう例えばこのように「あっ。ママ、試練を頂戴」。

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