③死紳士
ワタシはアナタがこわれていることを十分に理解したので、アナタのもとを辞去し、カレに会いに行った。
カレは特殊な物理法則に支配された世界のその内側のさらに小さな小宇宙のさらに辺境にぽつりと存在する微小宇宙のさらにさらに辺境にある忘れ去られた惑星に、百億の同族とともに押し込められている。押し込められているといってもその惑星は大きいので、カレとカレの百億の同族が生きていくための資源は十分に存在しており、かつ持続可能である。
カレはカレの百億の同族たちから忌み嫌われている。理由は明白で、カレがカレの同族を食うからである。
故にカレは食人人(これは一般名詞で、カレらと同じ発語器官を持たないワタシにも発語可能である)と呼ばれている。
カレの百億の同族たちは、カレを異種族と認定し、殺害するために惑星中を昼夜問わず捜索している。
カレはカレの親族に与えられた名前を捨て、自らが思う名を名乗っている。
カレは自らを***(意味:死ぬ死んだ死人)と名乗っている。この名の発語はカレとカレの同族達の身体的構造(発語のための器官)にのみ可能であるため、ワタシがカレの名を発語することはできない。だから、ワタシはカレを死紳士と呼んでいる(発語の正確な文字表記に近いものは「死死n死」であるが、概念的理解としては「死紳士」の方が近い)。
「オレぇ、もうだめですよぉ」
ワタシが死紳士のもとを訪ねるなり、カレはそう言った。
「なにがダメなのですか」
死紳士は何か不本意な顔でカレの同族のウデを齧りながら言った。
「もうオレ、これ以死ょう仲間たちを食べることなんてできないっすよ。もう、こいつで最後に死ようと思う。食死んを、最後に死ようと思う」
「それは、どうしてですか? アナタは、食人を心の底から高貴な行いであると言っていたではないですか」
「千年前まではそう思ってたすけどぉ」言いながらウデを食べていく。「オレえ、もうだめなんです。オレは仲間たちを食べてばっかりで、それ死か出来なくて、何の価値もない**(意味:生む産むエネルギー性。彼の種族名。ワタシは生器と呼んでいる)なんすよ。だからもう、生きてる価値もないん死ゃないかなって、思って」
「では、食人を辞めたアナタは、どうしたいのですか?」
「始ぬ死かないかもしれない。」
「アナタ、しかしアナタ、この世界の物理法則について理解していないのでは?」
「もちろんもちろん死ってます。もちろん。こんなオレでも死ってます」死紳士は身体中に飛び散ったカレの同族の思想器官の情報伝達液を舐めとりながら言った。「センセイの世界では始んだら身体は新死くならないので死ょう? とても不便だ死か死、オレぇ、ちょっといいなと思っているんですよ。身体が新死くならないということは、一度始んだらそこで終わる。死んに消えるということだ。いいですよね。でも、オレは別の世界に行けるほどの力を持っていない死、そもそも別の世界に行く死格すらない」
「可哀想、と言ってさしあげましょうか」
ワタシが言うと、死紳士は彼の不可算的な多数のウデを合わせ、合掌し、答えた。
「センセイお願い死ます」
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