予知夢を見る少女は自分が幸せになる夢を見るのか?〜婚約破棄から始まる新しい未来〜
葉南子
第1話 たぶん、悪い夢だから
「エリーナ、君との婚約を破棄する」
淡々と言い放たれた言葉が、私の耳に静かに届く。
静寂に包まれている大広間の空気は重く、
「婚約……破棄……?」
彼の冷たい声が胸を突き刺した。
突然の宣言に頭が真っ白になり、言葉を失ってしまう。
「君の予知夢は使い物にならない。今日からは、ここにいるルシアの占いを信じることにした」
ダニエルの背後から一人の女性が現れる。
真っ赤なドレスを着た女性はダニエルの腕に自分の腕を絡ませ、私を見下ろして
「エリーナさん、今までご苦労様。……ああ、何も役には立っていないんでしたっけ。目障りだから、さっさとここから出ていってくださらない?」
「まったく。とんだ穀潰しだったよ」
二人の
胸の奥が痛い。息が詰まる。
「ダニエル侯爵……どうして……」
絞り出したように震える声で問いかけると、彼は吐き捨てるように答えた。
「まだそんなところにいるのか。さっさと消えてしまえ」
彼が指を鳴らしたと同時に、足元が崩れ落ちる。
抗う暇もないまま、奈落の底へと誘われるように一直線に落下していった─────。
「──────いやあああぁぁぁ!!」
叫び声と共に、上半身を勢いよく起こす。
恐怖で身体が震え、無意識に両腕で自分を抱きしめていた。
額には汗が滲んでいて、上手く呼吸ができない。
「…………夢……?」
ゆっくりと意識が戻っていき、ぼんやりとしていた景色が次第に鮮明に見えてくる。
私は、いつものベッドの中にいた。
「違う……。きっと違う……。予知夢なんかじゃ……」
呟いた言葉が虚しく響く。
その瞬間、涙が頬をつたっているとこに気づいた。
私はいつの間にか泣いていたのだ。
──こんな悪夢が、現実になんてなるはすがない……。
そう信じた。
信じていないと、心が崩れてしまいそうだったから。
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