第4話 休日に軽く酒を飲む29歳②
現在の時刻。夜の12時。
何だかんだで、聴きたかったラジオが始まってしまったが、まだ俺の視界の中には、さっきよりもさらにいい感じに酒に酔ってしまっている様子の女性。
まるでここが自分の家であるかのように、その長くて綺麗な脚を机の下でゆったりとさせ、アルコールに頬をほんのりと染める美女の姿がはっきりと映り込んでいる。
「なぁ、明日仕事あるんじゃないのか? 別に俺はいいけど大丈夫なのか?」
「んー、大丈夫。7日ぶりの休みだし。日曜日の休みとか地味に久々ー」
そして、一応、それとなくそう言って、そろそろ俺の家での飲みをお開きにはしないかとその女性、高崎にジャブを打つが悠々と躱されてしまう俺。
でも、そうか。7連勤。さすがは販売業。休日が不規則なところはやはりブラックだと感じてしまう。
「高崎って休日っていつも何してんの?」
さっきの有象無象の男たちからのlineを見ていても、色々と飯や外出に誘われていた様子だし、ふと気になって俺は話の流れでそんな質問をする。
「ん? 私、まあ最近は特にこれと言って別にってところかな。周りの友達とかも最近は結婚とか子供とかもできちゃったりで、一緒に遊べなくなったしね」
何だろう。彼女のこの言葉だけを聞いていると、普通に親近感が湧いてもおかしくはないはずなのだが、その言葉を発しているのが目の前にいる高崎であることによって、当たり前だが全くその気持ちが湧いてこない。
全然一緒じゃない。俺と彼女じゃその言葉の背景に天と地ほどの差があることは明白だ。
「松坂は? 明日とか何するの?」
「いや、俺も別に、家に引きこもってるだけかな」
明日は日曜日。
基本的には朝のウォーキングからのコンビニやスーパーでその日の食糧を調達。後は家に引きこもって、サブスク動画を見てるかラジオを聞いて過ごしている。
一般的には虚しい休日なのかもしれないが、別に俺はこれでいい。
「えー、一緒じゃんー」
「いや、全然一緒じゃねぇよ...」
そう。もう一度言うが全然一緒じゃない。
俺の方はガチの方の引きこもり側だ。
でも、ただ、最近はちょっと、そんな俺も天気のいい朝にラジオを聞きながらドライブすることに嵌っていたりもして、実際のところ、明日はちょっと淡路島まで車を走らせる予定だ。
ちなみに淡路島に直接的な用などはない。
ただただ天気のいい青空の中、ラジオをかけながら車を走らせ明石海峡大橋を通って向こうのサービスエリアに到着して、飯を食って、正午までには自宅に帰ってくる予定。
そんで、もし天気がよければ次の祝日には意味もなく今度は、また海沿いを走って和歌山の黒潮市場にでも行く予定。
「でも、嘘だ。最近、松坂がよく休日の朝から車でどこかに行ってるの知ってるよー」
「まぁ、俺もたまには外には出るからな」
もちろん、一人でだが。
「もしかして、女の子と会ってたりして?」
女の子と会ってたりして?
「いや、会ってるわけないだろ。俺だぞ?一人に決まってんだろ...」
今はもうそっちに労力を使う体力もないし、無駄だからな。
「フフッ、そうだよね」
そして、この女。俺がモテないことの何がそんなに面白いのか、酔って笑い上戸になっているのか、とりあえず何をそんなに嬉しそうに...。
まぁ、あれだけ男からの誘いがあったりするモテる彼女からすれば、その対極にいる俺みたいな存在はいい酒のつまみになるのかもしれないけど。
「あー、私も本当、そろそろ次の彼氏欲しいー」
で、今度はその細い身体で伸びをしながら何だ。
次の彼氏...?
いや、余裕だろ。選ぶ側が一体何を言っている。
「.....」
ま、やっぱり彼女ほどの女性だ。理想が高いのだろう。
本当に、人生は不公平だ。
そう。ずるい...。
ずるすぎる。
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