第31話 騙す
大宮先輩が幕井の縦パスを受けて前を向く。
ボールを運ぶ。
ゴールまで25m
ポン
右サイドの佐藤にパス。
相手の㉓左サイドバックと1対1
シュ
佐藤が反発ステップで㉓左サイドバックを抜く。
縦突破だ。
ゴール前には春日先輩。
ファーサイドには小泉先輩。
PKスポット辺りには大宮先輩。
ボン
佐藤が右足でグラウンダーのクロスを上げる。
狙いは、PKスポット辺りの大宮先輩。
「(通った。)」
佐藤のクロスが大宮先輩に通る。
後は決めるだけ。
ドン
大宮先輩がダイレクトでシュートを蹴る。
バーン
しかし、大宮先輩のシュートはポストに当たってしまう。
「まじかよ。」
大宮先輩は天を仰ぐ。
大阪ユナイテッドボール。
神龍高校はかなり押し込まれている。
㉗左サイドハーフが左サイドのアタッキングサードでボールを持っている。
松田先輩との1対1
ポッ
㉗左サイドハーフがボールを縦に運んで縦突破を狙う。
バッ
しかし、松田先輩がボールと㉗左サイドハーフの間に体を入れる。 が、
スルッ
松田先輩は体を入れていたが、㉗左サイドハーフが松田先輩から体をすり抜ける。
そのまま、松田先輩からボールを奪う。
ボン
㉗左サイドハーフが左足でクロスを上げる。
バン
センターバックのデ・ヨングがクロスをヘディングで跳ね返す。
跳ね返したボールは相手の⑭トップ下にこぼれる。
⑭トップ下はこぼれたボールをトラップ。
ゴールまで17m
すぐに、幕井が寄せる。
⑭トップ下は右にボールをズラす。
⑭トップ下が右足を振り抜く。
幕井はシュートブロックをするため足を出す。
ポッ
しかし、⑭トップ下は右足で左側にボールを切り返す。
キックフェイントだ。
幕井は見事に騙される。
ドーン
そのまま、⑭トップ下は左足でシュートを放つ。
ゴール
安室先輩はダイビングで反応したが、ボールには手が届かなかった。
大阪ユナイテッドチームは喜ぶ。
「あの時、決めてれば。」
シュートを外した大宮先輩は自分に情けなさを感じる。
「幕井 簡単に足出すな!」
日村先輩が幕井に怒る。
「すいません。」
幕井が謝る。
幕井はかなり落ち込む。
ピー
試合は神龍高校ボールで再開。
1-2で神龍高校がリードされる展開だ。
神龍高校ボール。
ビルドアップのシーン。
キーパーの安室先輩がボールを持っている。
幕井は相手のフォワードとボランチの間に顔を出す。
幕井は首を振る。
㉚ボランチが少し離れた位置に立っている。
「(さっきもあの30番、あれぐらいの位置だったよな。
多分、俺がボールを持ったら寄せるんだろうな。」
ポン
安室先輩が相手のフォワードの間に速いパスを出す。
ピタッ
幕井は、完璧にボールを止める。
しかし、前は向かない。
幕井の予測通り、㉚ボランチが幕井に寄せている。
「(後ろ向き狙える!)」
㉚ボランチが幕井に思いっきり寄せる。
シュ
㉚ボランチが寄せた時、幕井がアウトサイドを使ってターンして、㉚ボランチを抜く。
幕井がスピードを上げる。
ボールを運ぶ。
ポン
右サイドハーフの佐藤にパスを出す。
相手の㉓左サイドバックが寄せる。
チャリン
佐藤が㉓左サイドバックを股抜きで抜き去る。
そのままスピードアップして、ボールを運ぶ。
中に切り込んでいく。
ゴールまで20m
位置は右斜め45゜
左足一閃
佐藤は左足でコントロールシュートを放つ
バーン
しかし、シュートはポストに当たる。
「クッソ、」
佐藤は小声で悔しさを露わにする。
「奪いにいけ! 時間ないぞ!」
ベンチにいる山崎監督が声を上げる。
時間はあと5分くらいだろうか。
選手達は全力で相手からボールを奪いにいく。
大阪ユナイテッドボール。
ビルドアップのシーン。
ドーン
㉕センターバックが㉘フォワードにロングボールを蹴る。
ボン
しかし、デ・ヨングがヘディングで競り勝ちロングボールを跳ね返す。
跳ね返したボールは、日村先輩に落ちる。
日村先輩が前を向く。
ポン
大宮先輩に縦パスをつける。
バン
しかし、㉔センターバックが大宮先輩にすぐに寄せる。
大宮先輩は前を向けない。
体を張って、ボールを収める。
「大宮先輩!」
幕井が大宮先輩を呼ぶ。
幕井は呼びながら周りの状況を確認している。
ポン
大宮先輩が幕井にパス。
大宮先輩のパスは少し遅い。
フォワードの春日先輩は空いたスペースに走り出す。
㉕センターバックが春日先輩についていく。
左サイドハーフの小泉先輩も走り出す。
現在の状況は、幕井はフリー、ゴールまで20m。
幕井の視野内には、小泉先輩、春日先輩、大宮先輩、佐藤の4人の味方がいる。
相手も4人のディフェンダーがそれぞれマークについている。
「(大宮先輩に24番が寄せたから24番のスペースが空いてる。
そこに春日先輩が走り込ん出るけど、25番がマークについてる。
出しても取られる。)」
幕井は冷静に状況を分析する。
幕井は大宮先輩の少し遅いパスをワントラップ。
「(でも、春日先輩に25番が食いつくってことは25番のスペースが空く。
そうすれば小泉先輩が走り込むスペースができる。
そういえばさっき、小泉先輩走り込んでたな。
だけど悟られちゃダメだ。
視線で騙す。)」
幕井は春日先輩の方を見る。
幕井と春日先輩の目が合う。
「(今だ 出せ。)」
春日先輩はパスを欲しがる。
ポン
幕井がスルーパスを出す。
受け手は小泉先輩。
小泉先輩は㉕センターバックが空けたスペースに走り込んでいた。
相手の㉛右サイドバックは幕井のノールックパスに対応できなかった。
「(春日先輩を見た時、視野内の端には小泉先輩がうっすら見えてた。
小泉先輩は走り込んでた。
視線で上手く騙せた。
やっぱりサッカーは騙し合いのスポーツだ。)」
幕井は自分の頭の中で冷静に言語化する。
ドン
小泉先輩はスルーパスを右足でダイレクトで蹴り込む。
ゴール
小泉先輩はシュートを右足で流し込んだ。
「ナイスパス!」
小泉先輩はすぐに幕井に駆け寄る。
ギュ
小泉先輩は幕井を抱きしめる。
幕井は心の底から小泉先輩に褒められたことがうれしかった。
幕井の中学時代は、先輩に褒められたことなんてなかった。
「小泉先輩こそ、ナイスシュートです。」
幕井も小泉先輩のシュートを称賛する。
「幕井、おまえはサッカー上手いよ。
〈止めて蹴る〉の技術も高い。
おまえがどれだけ、真面目にサッカーに取り組んできたかが分かる。」
小泉先輩は幕井のことをベタ褒めだ。
幕井は少し照れる。
ピー
大阪ユナイテッドボールで試合が再開。
試合は2-2で続いている。
神龍高校ボール。
相手陣内でプレーしている。
デ・ヨングがハーフウェイラインの真ん中辺りでボールを持っている。
幕井は㉘フォワードの後ろに立っている。
㉘フォワードがデ・ヨングにプレスをかける。
すると、幕井がフリーになる。
幕井は首を振る。
幕井の少し離れた位置には㉚ボランチが真後ろに立っている。
だが、幕井の左斜め後ろには0トップの大宮先輩が立っている。
ポン
デ・ヨングが幕井にパス。
「(30番が真後ろにいるってことは、30番に寄せられる前に左斜め後ろの大宮先輩にパスを出せる。)」
ポン
幕井はトラップして前を向く。
すぐに大宮先輩にパスを出す。
しかし、そこには㉚ボランチが立っている。
パッ
㉚ボランチが大宮先輩へのパスを予測しインターセプトする。
ピー
インターセプトと同時に審判が笛を鳴らす。
試合は2-2で試合終了。
引き分けなためリーグ戦の順位は変わらず、1位神龍高校、2位大阪ユナイテッドだ。
「(俺の予測が外れた。)」
幕井は最後に心残りが残った。
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