第23話 偽サイドバック

帰り際。

幕井は歩いて1人で寮に帰っていると。


「よっ!」

幕井の背中を誰かが叩く。

「誰?」

すぐに幕井は後ろを振り向くと

「名村!」

幕井はマネージャーの名村だと気づいた。


「なんか名村ってそんなタイプだったけ?」

幕井はあまりにも積極的な名村の行動に疑問を抱いた。

「本当は、こんなことするタイプじゃないんだけど、あまりにもあなたが落ち込んでたから。」

どうやら、幕井は他者からも思われるくらい、落ち込んでいる。


「ごめん。」

幕井は謝る。

「いや、謝ってほしいわけじゃないから。」

「ごめん。」

「いや、だから謝らなくていいって。

落ち込んでる理由は今日の紅白戦?」


「うん。」

「なんか今日のみんなは焦ってたよね。」

「え?」

幕井は予想外の言葉を言われる。

「なんか、監督に紅白戦やるよって言われたときみんな焦ってたというか、驚いてたというか。

なんか、必死感があんまりなかったよね。」


「たしかに。」

幕井は、いざ言われてみると少し納得した。

「幕井は練習とか練習試合のときとか、目がギラギラしてるけど今日は幕井含めてみんなギラギラしてなかったよ。

朝日は、前の練習試合から松長先生にブスケツがどうだこうだって言われておかしいし。」

幕井はかなり心に刺さることを言われる。


「みんなスタメン取ってやるとか、勝ってやる感なくなかった?」

名村は予想外の発言をする。

「スタメン? 勝つ? 

今日の紅白戦はメンバー入りのための...」

「でも、スポーツやってたら勝ちたくなるのが普通じゃないの?

だって、勝負事やってて負けたらつまらなくない?」

「あっ! 俺は何考えてたんだろ。」

幕井はやっと気づく。

「(このまま終わったら、中学のときと同じだ。)

ありがとう名村。

たしかに俺焦ってた。

次は勝つよ!」

と言って、幕井は名村を置いて走って寮に帰っていった。

「幕井は忙しいなぁー。」

名村は幕井の急な行動に驚いたが、幕井が元気になってうれしくなった。



夕食後。

「小泉先輩は、俺の目と脳が知ってるって。」

幕井は、今日の紅白戦のビルドアップの問題に考えていた。

「ビルドアップは、千葉と木村のセンターバックを中心にボールを持たせて...

はっ!」

「俺は何考えてんだ。

ボランチは自由だろ。」 

幕井はひらめく。



2日後のリーグ戦。

神龍高校は3-0で圧勝。

千葉は出場しなかった。

 

来週の相手は大阪ユナイテッド。



翌日の練習。

1年生が松長先生に集まってる。

佐藤とデ・ヨングと千葉は2・3年生チームで練習をしている。

「もう1回、紅白戦をする。

メンバーを見直すそうだ。」

松長先生が1年生に伝える。


「もう1回やるのか。」

1年生が焦りや絶望感を抱いてる。

幕井を除いて。


「松長先生!」

幕井が松長先生に話しかけにいく。

「前回の紅白戦で、ビルドアップが壊滅的にダメでした。

木村と千葉のセンターバック中心でボールを回してました。

だったらこの作戦なら、.....」

幕井が松長先生に自分の考えを伝える。

「どうですか?

間違ってますか?」

幕井は、松長先生の答えを待つ。

「幕井、それをみんなに言ってみろ。

俺は賛成だけど、みんなはどうかな。」


幕井は1年生チームのところに話しに行く。

「みんな、話がしたい。」

その後、幕井は自分の作戦をみんなに伝える。


「それ、勝ちにいくってこと?」

田中が質問する。

「うん。

みんな、前回の紅白戦どうだった。」

「完敗としか、言いようがないでしょ。」

田中が、当然のように言う。

「悔しいって感じないの?」


「はっ!」

朝日は気付かされる。

「(俺は、負けたとき、悔しさより何も感じなかった。)」

朝日は自分の感情を思い出した。


「俺は悔しさより無力感の方が強かった。

そりゃそうなんだ。

みんな勝ちたいと思ってた?

みんなスタメン取る気で戦ってた?

俺はそんな気持ちで臨めなかった。」

幕井の話には、聞いてるみんな心当たりがある。


「俺は、あの時、BIG8と対等に試合してた2・3年生たちとやるってなったとき、正直なんでだよって思った。

でも、次は違う。

スタメンを取りにいきたい。

勝ちにいきたい。 

もし、次もあんな負け方したら負け慣れする。

でも、勝つには、俺1人の力じゃ無理なんだ。

サッカーは11人でやるスポーツだ。

お互いがお互いを助けあう。

それがチームスポーツでしょ。」

全員、心に刺さる。


「頼む。

みんなでスタメンを取るために、勝つためにみんなの力が必要なんだ。

俺の作戦に力を貸してほしい。

お願いします。」

幕井は頭を下げ、懇願する。


「頭下げる必要ないよ。」

朝日が幕井の頭を上げさせる。

「みんな、このままでいいのかよ。

俺は嫌だね。

サッカーやってて、ただ試合するぐらいは、ごめんだ。」

「朝日。」

幕井は朝日の発言に驚く。

「勝ってスタメン入れ替えてやろうぜ!」

『あー!』

朝日の考えにみんなが声を上げる。



練習は、幕井の作戦を行うための戦術練習を行った。

松長先生と幕井は細かいポジショニングまで、丁寧に教えてくれた。



練習の後。

松長先生が帰ろうとしていたところ。

「松長先生!」

朝日が松長先生を呼び止める。


「どうした?」

「俺、あの練習試合の後、ブスケツの動画めちゃくちゃ見ました。」

「どうだった?」

「めちゃくちゃ上手いです。

でも、悩んでました。」

「悩んでた?」

朝日の意外な発言に松長先生が戸惑う。


「俺のプレースタイルじゃないんですよ。

ブスケツのプレースタイルは、俺は攻守でいっぱい走り回るプレーが好きです。

でも、ブスケツのプレーはアンカーというか、プレーメイカーというか俺の性に合わない。」


「俺はブスケツのプレーの良いところは盗みます。

でも、ブスケツになる気はありません。

俺はピッチを駆け回って、次の紅白戦に勝ちます。」


「は〜!?」

松長先生は驚く。

「俺はブスケツになれなんて言ってねえよ。」

「え?」

「本当に。 なんか最近おかしいなぁって思ってたけどそういうことだったのか。

おまえはおまえでいろよ。

自分の良いところまで変える必要はない。」

「あっ はい!」

松長先生は帰っていった。



紅白戦当日、試合前。

「今日のスタメンは、作戦どおり、キーパーとミッドフィルダー、フォワードは変更なし。

ディフェンスラインは右から遠藤、安達、木村、加藤。


ちゃんと練習してきた。

後は気持ちだけだ いくぞ。」

『はい!!』

前回の紅白戦のときの声より大きい。 


「松長先生。

作戦ってなんですか?」

マネージャーの名村が松長先生に質問する。

「わかってなかったのに練習見てたのかよ。

まぁ、この試合のキーは遠藤と幕井と朝日とだな。

遠藤には、偽サイドバックを任せてる!」

松長先生は自信満々に答える。

































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る