赤のリベンジ

第5話 左足

キックオフ

　ポン

幕井がデ・ヨングにパスを出す。

　バーン

そのボールをダイレクトで、右サイドを走っている佐藤にロングボールを出す。

だが、木村はそのボールを予測していた。

　ボン

ヘディングで跳ね返してコートに出しスローインにする。

スローワーは佐藤。朝日が遠藤に駆け引きをして佐藤からボールをもらう。佐藤の投げたボールを朝日はワンタッチで佐藤に返す。

すぐに、佐藤は森田に仕掛ける。

佐藤は左利きだ。

森田は中を重点的に切る。

すると、佐藤はアウトサイドでボールを縦に大きく運びスピードで森田を抜きさる。反発ステップ。まるで、日本代表の三笘薫のようだ。

幕井は木村の背中でボールを待ち構えていた。

　ボン　バーン

佐藤は利き足ではない右足でグラウンダーのクロスを送ったが、木村がボールを左足で外にクリアした。

その後はお互いシュートがないまま2分経過。

幕井は何回かボールをもらうが収められず、木村や千葉に取られる。

また、キープできても、遠藤に挟まれ潰される。

そんななか、スコアが動いた。

相手チームのボール。

木村がボールを持っている。幕井はキーパーのコースを切りながら、プレスをかける。

　ボーン

木村は左足で右サイドに対角線のロングボールを出す。

裏に抜けていた古川はキレイに足元にトラップ。しかし、加藤はすぐに追いついた。

1対1の場面、1対1に自信がないのか古川は仕掛けない。

古川に千葉が近づく。

　ポン　ポン

古川は千葉にバックパス。そのボールをワンタッチで遠藤に出す。

トラップした瞬間、

　ズー

朝日が後ろからボールを刈り取る。ファールはなし。カウンターのチャンス。

幕井は真ん中から左に斜めの動きをして千葉の背後を狙う。しかし、朝日はあえて幕井に出せず、ボールを運ぶ。ゴールまで10m。

木村が朝日に少し寄せると、

　ポン

スプリントで右サイドを上がっていた佐藤にアウトサイドでボールを渡す。

しかし、すぐに木村が佐藤に寄せる。佐藤は足裏で自分の少し前にボールを止める。

木村は朝日にパスを出されないよう、中を切る。

すると、次の瞬間。

　左足一閃

左足を振り抜き、シュート

　ゴール

ニアサイドに低いボールのシュートを放つ。

仙道は思ってもいないタイミングのシュートだったため反応が遅れ、足を出すも触れなかった。

幕井チームが1点リードする。

朝日達が佐藤に駆け寄り祝福する。

幕井も遅れてハイタッチしにいく。

幕井はこの短時間でもう分かっていた。

「佐藤の左足はすごい。」

左利きの右ウイングには左足でファーサイドにシュートを打たれたくないため、基本、中を重点的にディフェンスは切る。

そこで、基本は縦に1回ボールを運んで逆足の右足でシュートやクロスをする。

ただ、中を切られても左足で打っていくその左足のシュート技術に幕井は驚愕した。

試合は再開され、どちらもシュートを打つが点が入らないまま、9分を経過した。

幕井チームのボール。朝日がやや左サイド側でボールを持っている。

幕井は朝日と目が合った瞬間、朝日に近寄り、足元でボールを受ける。

すぐに朝日は幕井の正面を通りながら走り、ワンツーを狙う。

意図としては、幕井にパスをもらいワンタッチでシュート。

幕井はワントラップして、朝日に出そうとしたが、トラップした瞬間。

千葉は横からボールを刈り取る。あまりの千葉の強さに幕井は吹き飛ばされる。

千葉は身長185cmのナイジェリア人と日本人のハーフ。身長166cmの幕井にはフィジカルのレベルが違いすぎた。

千葉はすぐに小田に楔のパス。

小田は右利き。

真ん中で受けた小田はボールを運び、ディフェンスの安達が寄せてくる。

小田は右にボールをずらす。ゴールまで12m。

　ドン

　ゴール　

衝撃的なボールスピードだった。

小田は右足を振り抜く。細い体からは想像つかないボールスピードで、曲がったボールの軌道はゴールの右上隅に突き刺された。

それと同時に笛が鳴った。

前半終了。

朝日は笑いながら慰めるように幕井に

「ドンマイ　ドンマイ　　切り替えよ。」

と言った。

幕井は余計、失ったことに申し訳なさを感じた。選手達は松長先生に積極的にアドバイスをもらいに行く。

松長先生のアドバイスは的確だが、それだけではなく、新しい問題や疑問をくれる。

幕井は水を持ってきていなかったため、マネージャーの山田がスポーツボトルに水を入れてくれた。

選手達の水分補給が済み、ゲームに戻ろうとすると、松長先生が

「幕井、ボランチやってみない？」

幕井は耳を疑った。