第3話 フラッシュバック
朝日の思いもよらない言葉に幕井は動揺が走った。
そして、すぐに
「何で知ってるの?」
と聞くと
「担任の松長先生が教えてくれたんだよ。確か受験志願票にサッカー部に所属してたって書いてたって。」
そうだった。
受験志願票に、中学時代に所属していた部活またはクラブチームを書く欄があり、そこにサッカーと記入していた。
そう幕井は中学時代はサッカーをしていた。
部活ではなくクラブチームでだが。
ただ、幕井はそれを知られたくなかった。
「サッカー部入ろうよ。今人数少ないんだよ。13人いて試合はできないことないんだけどもっと人が欲しいんだよ。」
「11人いるだけ、マシじゃない。」
と不機嫌そうに返すと。
「俺らサッカー部は全国優勝したいんだ。だからもっと戦力が必要なんだ。」
幕井は鼻で笑うように
「全国優勝なんて無理でしょ。だって、この学校はサッカーどころか、何の部活でも成績を上げていないんだよ。無理に決まってる。」
すぐに朝日は
「だから俺たちサッカー部は、部活動で初めて成績を上げたいんだよ。俺らの学年ならやれると思うんだ。」
実は朝日の代の神龍中学は全国大会に出場している。
1回戦はpk戦で勝ったが、2回戦は青森の強豪、青森海江。全国大会は何度も優勝している強豪校に3-0で敗戦。
しかし、青森海江はこの年の優勝校。善戦したのではないのだろうか。
ただ、全国大会に出たからといって優勝できるかといったらそれは全くもって違う。
「とにかく、俺はサッカー部には入らないから。」
と強く言っておいた。
しかし、
「いや、無理。サッカー部に絶対入れるから。」
といって、そこからの日々は本当に面倒くさかった。
休み時間、放課後、授業の自習の時間。
ずっと勧誘してくる。
朝日だけが勧誘してくるならまだいい。
だが、寮で佐藤や千葉も誘ってくる。先輩達も誘っくる。
また、驚いたことに移動教室のときの移動中、廊下で、知らないサッカー部が
「一緒にサッカーしような。」
と言ってくる。
幕井はサッカー部の間で有名人になっていた。
それが3日間続いたある日の放課後。
幕井はいつも通り、小野寺と一緒に帰ろうとしていた。
しかし、小野寺は今日、体調不良で早退してしまった。
1人で幕井は帰ろうとしていたが
「ちょっと待って。」
と呼び止めてきたのは、松長先生だ。
「なんでサッカー部入らないの?」
と理由を聞いてきた。
すると、幕井は
「サッカー嫌いなんで。」
と言って早歩きで去っていった。
幕井が一階の下駄箱に着いたとき、朝日が来た。
「いたいた。探したんだよ。」
ただ、幕井は下駄箱に入れていた靴を履いてすぐに去っていったが。
朝日もついてきた。
今日はサッカー部は休みらしい。
「なー なんでサッカー部入らないの。せめて理由だけでも聞かせてよ。」
「サッカーが嫌いだから。」
と冷たく返す。
「じゃあなんでサッカーが嫌いなんだよ。」
と返してくる。
すると幕井は動いていた足を止め、しばらく黙り込んだ。すると、朝日が
「当たり前のことだけど、人間は以心伝心してないから口で伝え合わなきゃわかんないよ。」
と言ってきた。
すると、幕井の口が開いた。
「幼稚園から地元のサッカースクールでサッカーを初めて、小学校は地元のスポーツ少年団でサッカーをしてた。小6のときに県内の強豪のサッカークラブのセレクションに受かって、そこで3年間サッカーをしてた。でも、俺はなんで受かったんだろうってくらいみんなとのレベル差を感じた。鳥かごでも、ボールは全然取れないし、取れてもすぐに鬼になる。チームにはうまく馴染めなくて、ほぼ誰とも喋れなくて、チームの上手い奴からは無視されたり、一緒にアップをしたら嫌な顔をされた。」
その後、しばらく沈黙が続いた。
「俺はサッカーが嫌いとかじゃなくて、サッカーをしてる俺が嫌いなんだ。
サッカーという言葉を聞くだけで、サッカーをしている俺を思い出す。」
すると、朝日の口が開いた。
「なんでサッカー始めたの?」
幕井は考え始めた。なぜ、自分がサッカーを始めたのか。
思い出した。
「俺のお父さんは俺が3歳のときに病気で死んだ。お母さんは俺と5歳上のお姉ちゃんを女で1人で育ててくれた。確か4歳の誕生日の頃、誕生日プレゼントでサッカーボールをくれたんだ。それでサッカーに興味が出て、テレビをたまたま付けたら日の丸を背負ったプロのサッカー選手達が国のために、自分たちよりも体のでかい相手外国人相手に必死に戦ってる。」
ハッとした。
「そうだ。俺はプロになりたかったんだ。日本代表になって国のために戦いたかったんだ。」
そう。これが幕井のサッカーの原点。
幕井はそんなことすっかり忘れていた。
朝日が優しい声で
「俺は小学校のときに友達に誘われてサッカーを始めて、お父さんがこの学校のOBで俺にこの学校に入学して欲しかったからこの学校に入学した。別にサッカーで入ったとかそういうわけじゃない。だけど、松長先生がサッカーを教えてくれて、いい仲間に出会えて全国大会にも出れた。」
と、朝日は自分のサッカーの原点を語ってくれた。
続いて朝日が
「1回部活の練習見に来ない?」
と言って、2人でサッカー場に向かった。
サッカー場に行くにつれ、ボールを蹴る音がどんどん大きくなる。グラウンドに着くと緑色の芝と紅白戦をしている先輩や同級生達がいた。
「えっ、今日部活休みじゃないの」
幕井は今日サッカー部は練習があると勘違いしていた。
「違うよ、松長先生に遅れる。って伝えといただけ。おまえを連れてくるためにな。」
すると、松長先生が来て
「おー来てくれた。ちょっと話そうぜ。」
と言って、松長と幕井はサッカー場のベンチに向かい朝日は練習に合流した。基本的に3年生と2年生チーム、1年生チームに分かれて練習している。
幕井は松長になんでサッカーをやめたのか説明した。
すると、松長は突然
「よし、じゃあ練習に参加して」
幕井は困惑した。
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