第18話 事件の前触れ2
「おい、リーゼロッテ。昼飯出来たぞ。運ぶの手伝ってくれ」
午前中をリーゼロッテの部屋作りにあてたその日の午後……。俺は昼飯を作り、リビングのソファに座るリーゼロッテに声をかける。だが、反応がない。俺の作った食事に貪欲なリーゼロッテにしては珍しい事だ。
「どうしたんだ?」
とリビングの方に視線を向ける。すると、リーゼロッテはソファに腰掛けながら食い入るようにテレビを見ていた。
「なんか面白い番組でもやってるのか?」
俺はリーゼロッテに近付き、テレビに視線を向ける。映し出されているのは……地方局のニュース番組だった。リポーターらしき女性が、どこかの住宅街を歩きながら何やら喋っている。
「ん?これ、この場所の近くじゃないか?」
やけに見覚えのある場所が映っているな……と思ったら、リポーターが歩いているのはこの家の近くだった。ここから歩いて10分程度の場所だ。リポーターは、神妙な面持ちで視聴者に語りかける。
「……ここが、不審者に襲われたという場所です。この現場を含め、半径1km圏内で9件ほど不審者による被害が発生しており……」
途中で番組を見始めた俺にはすぐには何のことだか分からなかったが、リポーターの発言やらテレビに映っているテロップやらの情報を総合するとこういう事になる。
現在、俺たちの住んでいるこの町で不審者が出没する事案が連続発生している。その不審者は、歩いている男女カップルを見つけるとその2人の腕をいきなり掴みかかってくる。そして「動いたら殺す」と囁いた後、食い入るように男女の顔を覗き込む。不審者が腕を掴む力は凄まじく、また「動いたら殺す」という脅しの恐怖もありカップルは逃げる事も出来ない。だが、しばらくすると不審者は男女カップルを離しそのまま立ち去っていく……という話だ。
カップルの男女は腕を掴まれた時のアザが残るくらいで、特に怪我をしたという訳じゃない。にも関わらずこの事件がニュースで報じられているのは……ここ3日の間に、実に9件も同じ事件が起きているというその頻度の高さが原因のようだ。
「なんか、不気味な事件だな」
これがひったくり犯だとかだったらまだ動機が理解できる。でも、顔だけ見てそのまま立ち去るってのは……ちょっと薄気味悪い。
「今のところ、怪我人は出ていないようだが……この調子だと、いずれ何かの弾みで重大な事件に発展してもおかしくない。心配だ」
神妙な面持ちでそう呟くリーゼロッテ。確かにその危惧はもっともだろう。今のところ負傷者は出ていないが……「動いたら殺す」なんて言うくらいだから、下手に抵抗したら本当に命を奪われかねない。
「アキト。私たちでこの犯人を捕らえよう」
テレビから視線を外し、リーゼロッテが俺の方を見る。
「私たちならこの犯人を捕まえる事も可能なはずだ。巡回して、その不審者とやらを見つけ出して捕らえよう」
「まあ、俺達なら不審者を取り押さえるのも不可能じゃないだろうけど……もし怪しい人間を見つけたとしても、それが今回の騒動を起こした犯人か特定できないだろ」
もし怪しい人物を見つけたとして、それが本当に今回の騒動を引き起こした人物かどうか判別する
「その点については問題ない。私たちが襲われれば、襲った者が犯人だという証拠になる」
「俺たちが襲われる……?つまり、囮になって犯人を誘い出すってことか?」
「ああ。今回襲われた者たちは、全員が男女のカップル。しかも、『黒髪の男性と金髪の女性のカップル』だったという話だ」
「ん?そうなのか?」
俺は途中から番組を見始めたから知らなかったが、どうやら犯人が襲う相手の特徴はある程度決まっているらしい。
「そして都合のいい事に、君は黒髪で私は金髪だ。私たちが恋人のふりをして犯行現場付近を歩けば、犯人に襲われる可能性は高いのではないか?」
「なるほど……そういう事情があるなら、俺達が囮になるってのはいい案かもしれないな」
「だろう?」
ふふん、とドヤ顔で胸を張るリーゼロッテ。
「それじゃあ、やってみるか……囮捜査を」
こうして、俺とリーゼロッテの偽装カップル囮作戦を開始する運びとなった。これが、俺が巻き込まれるふたつの事件のうちのもう片方の前触れだ。
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