第19話「加工実験と拠点の活気」

 ビル地下に戻った俺たちは、日没前に合流した仲間たちと共有しあう。3階制圧の成果と、モンスター素材の利用可能性が大きなトピックだ。

 「すげえ、マジでこんなの使えるのか?」

 「甲殻ワームの外殻を盾とか防具に……なんかロマンあるな」


 新入りの小野田は工場勤務の経験があるだけあって、一通り素材を触りながら何かを考えている。彼の横には橘と北村がつき、協力していくつもりらしい。


 「形状が独特だから、金属板と合わせて補強すればそれなりに強度のある盾になるかも。問題は血や肉をきちんと除去して乾燥させないと、すぐ腐るってとこだな……」

 小野田は眉間に皺を寄せながら苦心の色を見せる。電気もガスもない環境で防腐処理をどうやるかが最大の問題だが、工夫次第でなんとかなるかもしれない。


 「太陽光に当てて干すとか、塩漬けにする方法とか、色々試してみよう。夜になったら作業はできないから、明日以降の昼間にやるしかないけどね」

 リナがまとめをとる。こういう細々した作業の段取りや記録をするのは、彼女の支援士スキルとも相性がいい。


 一方、俺とヒロキは柿沼の傷を改めて治療していた。回復士ジョブであるヒロキが魔法を施しつつ、包帯や消毒を組み合わせることで何とか歩ける程度には回復させられる。が、骨折レベルまでは完全治癒できないのがもどかしい。

 「悪いな、ハジメ、ヒロキ……俺のせいで探索が遅れちまって」

 柿沼は忸怩たる面持ちだが、俺は首を振る。


 「気にするな。誰だって怪我する可能性はある。むしろ、あのタイミングで回復が間に合ったのは奇跡だよ。命が助かっただけでも充分だ」

 実際、一歩間違えれば柿沼は甲殻ワームに殺されていたかもしれない。ヒロキの回復術がなかったら確実にアウトだった。


 「……ありがとう。早くレベル上げて強くなるよ。次はもっと役に立ちたい」

 柿沼は唇を噛んでうつむく。そんな彼に、「頑張ろう」と声をかける仲間も多い。人間同士の絆が深まりつつあるのは、この地獄の中で数少ない希望だと感じる。


 夕方になり、ビル地下には炊き出し(といってもカップ麺や湯で戻すパスタなど)を分担する人たちの姿がある。人数が15人を超えると、一度に食事を回すだけでもひと苦労だ。水やガスの問題もあり、非常用バーナーがすり減っていく。


 「本当は地上に出て大掛かりな探索をすれば、何か素材も手に入るかもしれないけど……リスクが高すぎるな」

 ヒロキが嘆く。外にはまだ犬型やゴブリンなどがうろついているだろうし、夜間になれば余計に危険だ。


 「当面は、こうして細々とやっていくしかない。明日になるまで大人しくしたほうがいいだろう」

 俺はそう言いながら、手元のステータス画面を眺める。昨日あたりから不思議なノイズが走ることがあり、先ほど3階で謎の力を引き出したときも同様だった。


 (ユニークスキル……どんな条件で使えるのか、全然分からないな)


 意図的に呼び起こせるのなら使い勝手が良いだろうが、発動するときは衝動的に発生する感じがする。下手すると制御不能に陥りかねない。少なくとも今は仲間に不確定要素を報告する余裕もなく、「一時的にすごい力が出た」と曖昧に伝えるしかない。


 その夜、ビル地下の雰囲気は、どこかささやかな活気を帯びていた。小野田や橘、北村などがモンスター素材の加工法をいろいろと話し合っていて、実際に甲殻外殻の一部を金槌で砕いたり、余分な肉をナイフで削いだりしている。

 臭いは強いが、換気のために地下の換気口を少し開けて何とかしのいでいる。こういう作業をしていると、“リアルデスゲーム”というより、ファンタジーRPGのクラフト時間のようでもある。


 「すげえ……硬いわ。普通の金属加工より手間がかかる」

 小野田が火打ち石や工具を使い、甲殻に穴を開けようとするが、うまくいかない。かなりの力と技術が要るらしい。


 「どう? できそうか?」

 俺が聞くと、小野田は首を振りつつも、興味津々の表情だ。

 「正直、めちゃくちゃ大変。ただ、もし穴をうまく空けられれば紐を通して盾っぽくできるし、金属板と貼り合わせれば案外使えるかもしれない。時間かかるから今日は無理だけど……」


 前途多難ということだが、可能性はゼロではないらしい。いずれ、上層階を制圧して余裕ができれば作業スペースを確保し、もっと本格的に試せるだろう。明日、4階に挑んで成功すれば、2〜4階が広い作業場として活用できるようになる。


 「明日こそ4階へ行くつもりだけど、今日の疲れが残ってる人は多い。どう分担する?」

 橘が問いかける。柿沼はまだ回復が必要だし、ヒロキやリナもMPをすり減らしている。

 「うーん……明日は別のメンバーも連れて行こう。浅海さんはまだ無理っぽいけど、北村や小野田の“パワー型”がいれば助かるかも。少人数で突撃して負傷が増えるのは避けたいし」


 そう言いながら、翌日の計画を模索する。4日目はまだ夜になったばかりだが、明日の5日目は“発電所破壊”がさらに進んで市街地が真っ暗になる恐れもある。神が言うとおり、中ボス級が動いていれば電力はもうほとんど残っていないだろう。


 「今日中に電気が完全に止まる可能性もあるよね……。明日の朝起きたら、非常用のライトも使えなくなるかも」

 リナが不安そうに言う。実際、さっきまで微かに残っていたビルの非常灯も点滅しはじめている。止まるのは時間の問題だ。


 「それでも、やるしかない。電気が切れたら確かに暗闇は増えるし不安だけど、夜さえ避ければ昼はある程度外光が届く。ビルの内側は薄暗いけど……懐中電灯やろうそくでしのぐしかないな」

 ヒロキの落ち着いた声が拠点の空気を支えてくれる。日常なら絶望しかない状況を“どう乗り切るか”へ切り替えるため、こういう仲間の存在がありがたい。


 結局この夜は、加工実験を軽く進めながら、終始バタバタと時間が過ぎることになる。ビルの一角で犬型モンスターの唸りが聞こえたような気もするが、侵入には至らず大事にはならなかった。


 4日目の夜——明日に控える大きな挑戦(4階制圧)と、電力完全停止の危機感を抱えながら、俺たちはそれぞれ交代で仮眠を取り、束の間の休息を過ごす。

 特に俺は、ユニークスキルらしき力を再び使えるのか、どういう条件なのか頭を巡らせつつも答えが出ず、もやもやした気分で眠りに落ちる。


 (チュートリアルも半分を過ぎた……あと3日後には神が何を仕掛けてくるのか……)


 その不安を抱えながらも、物資不足や怪我人のケアなど課題は山積みだ。せめて今夜は大規模な襲撃がないようにと祈りながら、薄暗いビル地下で横になる。次に目を覚ませば、5日目の夜明け——そしてさらなる絶望が待っているかもしれない。

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