ヤンデレシスコン王太子の妹に転生してしまったので、推しの悪役令嬢(♂)と駆け落ちします!

Iso

第1話 転生先はヤンデレの掌の上でした……。

ーー意識が覚醒する。



瞼の裏に広がるのは、見慣れた、しかし見知らぬ天井。

淡いピンク色の絹地に金糸で刺繍が施された豪華絢爛なそれは、幼い頃から見上げてきた自分のベッドの天井だった。


「……アリア様、お目覚めですか?」


優しく声をかけてきたのは、侍女のアンナ。

心配そうに私を見つめる彼女の、現実にはあり得ない桃色の髪と橙色の瞳は、私がこの世界の住人であることを改めて実感させた。



ーー私は、乙女ゲーム『プリンセス・ラプソディ』の世界に転生していた……。



転生モノらしく悪役令嬢セシリアに、ではなくーー主人公である王女アリアとして。




このゲームの主人公であるアリアは、美しく可憐な少女である。


しかし、その人生は決して幸せなものではなかった。

彼女は、実の兄である王太子エドワードから異常なまでの愛情を注がれ、まるで所有物のように扱われる。

そして最終的には、彼の歪んだ愛情の檻に閉じ込められ、兄妹でありながら無理やり花嫁にされる悲しい運命にあった。


まさに、絶望の淵。


ベッドから起き上がり、ゆっくりと足を床につける。


窓の外には、王宮の庭園が広がっている。色とりどりの花々が咲き誇り、噴水がキラキラと輝く、美しい景色。

ーーしかし、その美しさも、私の胸に広がる不安を拭い去ることはできなかった。


なぜ、私がアリアに?


前世でプレイした『プリンセス・ラプソディ』では、私は悪役令嬢セシリア推しだった。

高慢で意地悪な悪役令嬢として描かれていた彼女だが、その裏に隠された本当は優しい少女で、孤独を抱えながらも強くあろうとするところに惹かれていたのだ。

できることなら、存在しないセシリアルートを攻略し、彼女を幸せにしたかった。



しかし、現実は残酷だった。

私はセシリアではなく、彼女に嫌われて、最終的には兄王子に破滅へと追い込まれる運命のアリアとして、この世界に生まれてしまったのだ。


「アリア様、気分が悪そうでございますが……」


アンナの心配そうな声に、私は小さく首を振る。「大丈夫よ、アンナ。少し疲れているだけ」


無理やり笑顔を作り、アンナの差し出すハーブティーを口にする。ほんのりとした甘さが、緊張で張り詰めた神経を少しだけ和らげてくれた。



この世界のアリアには、もう一つ、大きな秘密があった。

彼女は、王妃の不義の子なのだ。

その事実を知ってしまう者は、エドワードただ一人。彼はその秘密を握り、アリアを縛り付けるための道具として利用する。


さらに、原作のアリアは幼い頃に病を患い、足が不自由になる。

そのことが、エドワードの歪んだ愛情をさらに加速させる要因の一つとなっていた。

しかし、今のところ、私の足は健康だ。もしかしたらーーまだ運命を変えることができるかもしれない。


かすかな希望を抱きながらも、不安は消えない。

エドワードとの最初の出会いは、いつになるのだろうか。彼の歪んだ愛情に触れた時、私はどうすればいいのだろうか。


「アリア様、エドワード様がお見えになりました」


侍女の声に、私の体は硬直する。

前世の記憶を取り戻したばかりだというのに、この時が来てしまった!?

心臓が激しく鼓動し、息が苦しくなる。


ゆっくりと扉が開き、そこに現れたのは、金色の髪と青い瞳、まさに王子様らしい美少年ーーエドワードだった。

しかし、その美しい顔には、既に歪んだ愛情の影が潜んでいた。


「可愛い私のアリア、元気だったか?」


優しい声で語りかけながら、エドワードは私の頬に手を伸ばす。

その触れ方は、まるで壊れやすい白磁の人形を扱うかのように優しく、そしてどこか執拗で……。


私は、恐怖に震えながら、か細い声で答える。「ええ、お兄様……」



この瞬間、私は理解した。

この世界での私の戦いは、既に始まっているのだ。

そして、それは想像を絶するほど過酷なものになるだろう、と。



綺麗な彫刻に飾られた金細工の窓枠が、まるで牢獄の鉄格子のように感じられたーー……。

この金色の檻から、私はどうすれば逃げ出すことができるのだろうか。

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