第2話 バイテレク カザフスタンより

親愛なる友へ


カザフスタンの小さな町、バイレテクからこの便りを送ります。


アスタナから車で数時間、草原を抜けて到着したこの町は、時間が止まったような静けさが広がっていた。

町の名前「バイレテク」は、「豊かな土地」を意味していると、最初に出会った少年が教えてくれた。

アルシャンというその少年は、小さなヤギを連れて市場へ向かう途中で、私に道案内をしてくれたんだ。

バイレテクは伝統的な暮らしが色濃く残る場所で、ここでは家々の軒先にキルギス模様のカーペットが干され、羊飼いたちが忙しく働く姿をよく見る。

アルシャンの案内で市場を訪れると、色鮮やかな布や香辛料が並び、そこで目に留まったのが「クイルト」という伝統的な刺繍の布だ。

この布を売っていた老婦人のサウラさんは、

「これが私たちの祖母から受け継いだデザインよ」

と話しながら、刺繍に込められた家族の物語を教えてくれたんだよ。

昼食には、地元のレストランで「クイルダク」を食べてみた。

羊の内臓を炒めた料理で、スパイスの効いた濃厚な味わいが口いっぱいに広がるんだ。

店主のラシッドは、

「これこそ私たちの誇りの料理だ。昔は祝祭の日にしか食べられなかったんだ」

と語りながら、料理を囲む家族の伝統を熱心に話してくれたよ。

午後は町の中心にある古いモスクを訪れた。

このモスクは、砂岩と木材を組み合わせたシンプルな造りだけど、その中に入ると、地元の子どもたちが詠唱を練習している声が静かに響いていた。

たまたま話しかけてくれたイマームのアズィズさんは、

「このモスクは200年の歴史を持ち、多くの旅人の祈りの場となってきた」

と教えてくれたんだ。

彼は私に地元の伝統や祈りの形を丁寧に説明してくれ、別れ際に「良い旅を」と握手をしてくれたときの温かさが心に残っているよ。

夕方、市場で買った絵葉書に書き込もうと広場に腰を下ろすと、アルシャンが再び現れた。

彼は手作りの「カズ」(馬肉のソーセージ)を持ってきて、「お母さんが旅人に食べさせなさいって」と渡してくれたんだ。

その心遣いに感動し、私も感謝の気持ちを込めて小さなポケットナイフをプレゼントしたよ。

彼は大事そうにポケットにしまい、

「また会いに来てね」

と笑顔で手を振って去っていったんだ。


バイレテクの静かな空気と、そこに生きる人々の優しさは、きっと一生忘れられないものになるだろう。

次はどの町から絵葉書を送るか、楽しみにしていてくれ。


草原の風を感じながら。


きみの友より


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