結界

 とある山間の集落。


 そこに、彼の実家はあった。

 土着信仰が根強く残る地域で、彼の実家は代々【扉】というモノを守る神社だと聞いていた。


 学生時代、初めて彼の実家へ遊びに行った時、普通の神社とは違う雰囲気に、


(さてはおかしな宗教では?)


 と怪しんだが……


 かなり歴史は古いらしく、友人が四代目になると聞いたので流行りの新興宗教ではなさそうだと思い、妙に安心したのを覚えている。

 三代目だった彼の父親は、彼が成人する前に他界してしまったとかで、彼は学生の身で既に四代目を継いでいた。


 と言っても、一般的な神社の神主とは少々異なっていた。

 中国で見る様な、道士服……とでもいうのだろうか?

 日本の神社では見ない、かなり異質な姿をしていた。


 それは、鳥居にも表れていた。


 杉木立に囲まれた石段が続くその先に、それはあった。

 よく見る鳥居ではなく、太い柱の間に、真っ赤な注連縄が渡されていて、その縄には黄色い札の様なものが括りつけられている。


 神社全体を取り囲むように――それが等間隔に立っていて、まるで結界のようだった。



 久しぶりに訪れた私は、改めてその異様な光景に息を飲んだ。


 昼間でも薄暗く、ひと気がない。

 辺り一帯が、まるで異空間のようだった。


 時が止まったような静寂の中、しばらく呆けた様に立ち尽くしていた私は、音もなく近づいてくる1人の少女に気づかなかった。




「お兄さん、何してるの?」



 ふいに背後から声を掛けられて、私は思わず「うひゃぁ!?」と素っ頓狂な声を上げた。

 驚く私に少女も驚いて「わぁ!」と目を丸くした。


 私は振り返って少女を見た。

 5,6歳くらいの女の子で、真っ黒な甚平姿をしていた。

 色が白くて、ぱっちりと大きい目を見開いて私を見ている。


 長い髪を二つ分けして、お団子結びをしている。蝶の形をした結び止めが印象的だった。

 前髪パッツンなのも愛嬌があって、とても可愛らしい女の子だ。



 恐らく、幽霊ではないだろう……たぶん。



 その子にじっと見つめられ、私はしどろもどろになりながら、


「あ……あの……」


 と、呟きかけた時、「あ!!」と、少女が嬉しそうに笑って私の横を走り抜けていった。


 私は振り返った。

 そこに、驚いた顔をして佇む友人を見て、思わず苦笑いを浮かべる。


浩輝ヒロキ?」

「あ……や、やぁ」


 驚く彼に、なんて言おうかと言葉に迷っていると、そんな私の気持ちを察してか、彼はニヤリと笑って言った。




来たのか?」



「――!」


 不意を突かれて、私はますますしどろもどろになった。

 彼が盗んだなんて思ってはいないが……しかし、こんなに動揺してはいくら隠してもバレバレだろう。


 私は潔く認めた。



「何かがあるんだろう?」

「……」


 彼は黙ったまま何も答えなかったが、しばらくすると「仕方ないな……」と小さく呟いて、言った。


「話すよ。来て」



 私は彼の後をついて、結界の中に入った。

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