セコハン-Second Hand
sorarion914
財布
その日。
私は久々に会う友人と、駅前で待ち合わせをしたのだが――
仕事が押して少し遅れると連絡を受け、仕方ないので近くのショッピングセンターで時間を潰すことにした。
普段はあまり見ないお洒落な雑貨屋や、洋服などを冷やかし気味に覗きながら、目的もなくウロウロしていたところ、リサイクルショップを見つけてふらりと立ち寄った。
一人暮らしを始めた頃、なるべく金を掛けずに日用品を手に入れる為、この手の店はよく利用していた。
今は逆に、不要になった物を売りに来ることが多い。
どうせ二束三文にしかならないが、それでも誰かの役に立てば……と思うと捨てられない。
安く買い取られたとしても、ゴミにするよりはずっとマシだ。
私は店内をゆっくりと見て回った。
家電に洋服。インテリアに楽器。
趣味の世界で不要とされ、売りに出された品々を興味深く眺めながら、時折手に取り、あれこれ眺めながら鞄などが売られているコーナーまで来て――ふと足を止めた。
財布が売られている。
ちょうど今使っている財布が、かなり痛んでいて新しく変えたいと思っていたところだった。
クリアケースの中に、無造作に放り込まれた財布が気になり、私は1つ手に取って見た。
聞いたこともないブランドだったが、そこにあまりこだわりがない私は、とりあえず使えればいい――という感じで手にしてみたのだが……
なんというか。
かなり使い込まれている。
汚れや破れも目立ち、くたびれた感じが否めない。
それでも値段は千円以上もする。
(嘘だろう?こんなボロ財布買うくらいなら、新品買った方がマシだろう)
私は思わず苦笑いした。
他も見てみるが、どれも似たようなもので、こんな使い古しの財布、一体いくらで買い取ったのだろう?と不思議に思った。
恐らく、ただ同然で買い取って、倍以上の金額付けて売っているに違いない。
売れたら儲けもん――くらいの感覚で。
(いくら財布が欲しくても、これはないな……)
そう思い、私は手にしていた財布をクリアケースに戻そうとして、ハッとした。
底の方に1つだけ。
他とは違って比較的キレイな財布があったのだ。
男物の長財布で、手に取ると合皮だろうが割とシッカリした造りの黒い財布だった。
目だった汚れもなく、傷もない。
中を開いてみると、今使っている財布と似ていて、使い勝手もよさそうだった。
値段は五百円。千円切っている。
(お!これ、いいじゃん)
こういう掘り出し物を見つけた時、宝物を発見したような気分になる。
それがリサイクルショップの楽しいところだった。
こういう出会いは直感が決め手。
そう思って、私は迷うことなくレジに持っていくと、買ったばかりの中古の財布に満足して店を出た。
駅に着くと、ちょうど友人が来るところだった。
「遅くなってすまない」
そう頭を下げて謝る彼に、私は「気にするな」と笑って見せ、近くの居酒屋に入ると、リサイクルショップでの経緯を話した。
「おかげで、いい買い物が出来たよ」
私は中古の財布を見せた。
すると彼は、少し驚いた顔をしたが、すぐに
「へぇ……新品みたいじゃないか」
と笑った。
「だろう?他のヤツはボロボロなのに千円以上もしたんだぜ?これはこんなにキレイなのに五百円だ」
「よく見つけたな」
「ケースの底の方にあったんだよ。もしかしたら、新古品かもしれないな。こういう掘り出し物があるから、リサイクルショップってたまに覗くと面白いんだ」
私は得意げに笑った。
その後しばらくは、くだらない話で盛り上がった。
大学時代はよく飲みに行ったが、勤め出してからは時間も合わず――こうして差し向かいで話をするのは本当に久しぶりだった。
彼は少し変わった男で、あまり人づきあいが良い方ではなく、学内では少々浮いていた。
いつも大人しく本ばかり読んでいて、バカ騒ぎをしている姿は一度も見たことがない。
一見すると目鼻立ちがキレイで女にはモテそうだが、近寄りがたい雰囲気があり、周囲の人間はみな敬遠していた。
今となっては、何がキッカケで話をするようになったのかよく覚えていないが、関わってみると案外面白くて、気が付けば行動を共にするようになっていた。
会うのは実に3年ぶりだが、彼は変わっていなかった。
自分たちも、もう20代後半。
互いにまだ独身なのは、この際話題にはしなかった。
彼は久々に会ったせいか、酒のピッチが速かった。
「なぁ……さっきの財布、もう一度見せてくれよ」
だいぶ酔った口調でそう言ってきた。
私は鞄の中から中古の財布を取り出すと、それを彼に手渡した。
手にした彼は、真剣な目で財布を見回している。
その手つきや眼光は、まるで鑑定士のようだった。
「聞いたこともないブランドだけど、悪くないだろう?」
「……」
彼は何も言わず、手の中で財布を閉じたり開いたりしている。
まるで何かを探しているような素振りだが、財布の中は空だ。
「なぁ、これ……俺が千円で買い取るって言ったら、売ってくれる?」
「は?」
突然の提案に、私は思わず吹き出した。
「お前、何言ってんだよ」
「いや……マジでさ。あ、じゃあ二千円は?」
「アホ」
私は彼の手から財布を奪い取って笑った。
「こんな財布、そこら辺にいくらでも売ってるだろう?新しいの買えよ」
「それがいいんだ。気に入ったんだよ」
私は、ダメダメというように首を振りながら言った。
「これは俺が見つけたんだ。だからダメ!」
どうでもいい財布だと思っていたが、人にせがまれると急に惜しくなる。
意地悪でもするように、私は彼を手で制すると、鞄に財布を入れた。
それを見て彼は諦めたのか、それ以上しつこくねだることはなかった。
なんとなく気まずい空気が流れたが、この日は何だかいつも以上に酒に酔い、酔ったまま2人で店を出たところまではかろうじて記憶にあったが――
そこから先は一切記憶がなく、気が付いたら自宅の玄関で朝を迎えていた。
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