第30話 メンバー
俺たちは今、集落に向けて歩いている。
ウィンプはもう少し壁の中に用があると言っていたため今はボスと二人きりという状況。
まだ、一概に全てが終わったと括ることは出来ないものの、何だかとんでもない開放感で力が抜けそうだ。
「これから、俺たちはどうなるのだろうか?」
あの後、口を開くこともなく無言を貫いて何かを考えていたボスだったが、集落が近づくこのタイミングでようやく口を開いた。
「これから……まあ俺もまだひよっこだしよく分からん。
別に死ぬわけじゃ無い、生きたままでちゃんと詫びて生きていけばいいよ」
「それは……いや、そうだな」
何かを言いかけた彼はそれだけ言ってまた黙る。
ようやく着いた集落、建物の感じを見る限り特段不備もなく、救助隊メンバーの勝ちで終わったのでは無いかと予想がつく。
「ハガリさん!?
ちょっと、その顔大丈夫ですか?」
集落に残っていたのはルノ、それから……。
「ボス!、嘘でしょ……?
ボスがやられちゃったってこと?」
「すいません、俺たちが加勢にいければ……」
ルハルにラルゴ、ボスの傘下であった二人組が縄で縛られている。
「ルノ、そっちの状況は?」
「はい、とりあえずこっちは完全勝利でした。
集落の人々は、とりあえず船の中に保護。
全員身の安全の確保も済んでいます、それと……」
「ミドロ……!」
振り返るとそこにいたのはお母さん、それから消えたはずの仲間たちが続々と手を振る。
俺は、お母さんと身を寄せ合い生きていたことに安心する。
ボスのやりたかったことは恐らく情報収集、何かを知っていそうな人物をどこかに閉じ込めあの遺跡のありかを聞き出そうとしたのだろう。
そのため殺されている、という可能性は低いとは思っていたが、それでも安心した。
「良かったね、早めに見つかって!」
空にいたのはヤマエとマヤ、ルノが状況説明を改めて話し始める。
「彼女たちによって、行方不明者も見つかりました。
健康状態もとりあえずは異常なしです」
お母さんはボスに向かっていく。
気まずくて下を向くボスの顔をギュッと上げた。
「あんた、何したか分かってるの!?」
「……はい」
「ったく、もうちょいで戻れないところまで行ってた。
反省、してきなさいよ」
肩を強く叩いて、そう言った後ヤマエたちの後を追う。
集落の皆と、合流するようだ。
「俺たちも行こうか」
ボスの一味全員を俺の剣で斬ってから、俺たちも船への道を辿る。
ふと、ハガリさんの顔が浮かんだ。
俺もようやく、全員が無事の状態で世界を救うことが出来たのかな。
「いやいや、ハガリさんは絶対認めないでしょ……」
やれやれと首を振るアイラ。
ようやく救助隊全メンバー、勿論ハガリさんは除くがそれ以外が集まり、夜ご飯にありついている。
グラス一杯に入ったお酒をガブガブ飲むアイラを羨ましそうに見ているガンテツさんは、その言葉に同意する。
「だろうな、なんせミドロの顔はボロボロだ。
これじゃまだまだとか言うな、自分のことは棚に上げながら」
「ハガリは負けず嫌い」
久しぶりに笑い声が上がって、皆楽しそうにしている。
スアイガイではそんな暇もほとんどないまま、ここまで来てしまったから、余計に楽しく感じた。
「それで、あの三人ってどうなっちゃうんですかね?」
ルノは後ろを振り返りながらそう言う、俺たちが普段寝泊まりしている部屋の奥には一時的に異世界で悪さをした犯罪者を入れておく部屋がある。
今はそこに、ボスたちが入っているというわけだ。
そんなボスたちを気にかけていたルノだったが、その疑問に答えたのはやはり年長者のガンテツさん。
「普通は、それぞれの故郷に帰される。
そしてそれぞれの世界でのルールで裁く。
まあ今回は……最終的にどうなるだろうか」
「それから、ボスの故郷はもう無くなっちゃってるんだよね?」
「うむ、それこそどうなるかは分からんな。
どこかの世界に置いておくのも不安だ、彼自身の能力はどの世界の人間でも喉から手が出るほど欲しいからな」
ボスの世界はとっくに終わってしまった……戦いの中で確かに彼はそう言った。
寂しさ、そんなものを抱いて歪ませってしまったのにはそんな過去があるからだろう。
世界間では未だに根強く色々な問題が蔓延っている。
誰がどうなってもおかしくはない、そんな時代だ。
「まあ、俺たちの当分の仕事は迷惑をかけた二つの世界に結果報告と、誤りを入れることだ。
勿論、あいつらも一緒にな」
そう言って、お酒の代わりにコーヒーを飲み干すガンテツさん。
後一週間くらいは、お酒を我慢しなければいけないくらいには、仕事が残っている。
なんやかんやで解散になった後、ボスたちがいる部屋の扉をノックする。
立場の都合上、今はとりあえずドア越しにしか喋ることは出来ない。
「ミドロだろ、どうした?」
「いや、色々話しておこうと思って」
「……いや、いい。
何が起きても俺は、俺たちは受け入れるだけだ」
「うん」
そういえば、と気になっていたことを聞く。
「二人がさ、ボスって呼んでたから俺もそのまま呼んじゃってたけどさ……本当の名前は?」
「言いたく無い、故郷の記憶を思い出してしまいそうで」
「そっか……」
彼の境遇、何となく抱いているコンプレックスに共通点などを感じていたものの、よくは知らない。
どれだけの辛いことがあったのかも、きっと共感することは出来ないだろう。
俺に出来るのは、明るい話くらいだ。
「じゃあさ、ルンディって呼んでも良い?」
「ルンディ……?
一体どこから出て来たんだそれは」
「俺が好きな本の一つにさ、始まりの英雄って本があるんだよね。
その中に出てくる主人公でさ、俺も小さい頃憧れたんだ。
好きだろ、主人公とか」
「ふふっ、そうだな。
ボスと呼ばれるのも堅苦しい、今度からはその名前を名乗るとしよう」
その後、興が乗った俺は子供の頃の話をしたり昔読んだ本の話をしたり、気づいた時にはすっかり遅くなっていて慌てて部屋に戻るのだった。
翌日、もうそろそろ出発というタイミングだったがどうやらウィンプが戻って来ていないらしい。
居場所を知っている俺は、そこへ向かう。
文字の書かれた壁をトントンと叩くと、あの時と同じく規則的な速度で開く。
「おお、すまねえなミドロ。
悪いけど、もう時間だから行くわ」
「ああ、俺の祖先の人と喋ってたんだ」
「そうそう、俺も精霊だしあいつも幽霊みたいなもんだし、朝まで語り明かしちゃったぜ」
「そっか……俺も挨拶だけしようかな。
聞こえてるか分かんないけど、色々力を授けて下さって、ありがとうございました!!」
そう言って、その場を離れる俺たちを見つめる一つの影。
「ふふっ、久しぶりの面白い物を見せてもらったよ。
さあ行ってこいウィンプ、救助隊、血の繋がれた僕の可愛い子供、それから僕の名前を受け継ぎし者」
手を振る彼の姿を僕たちはとっくに見ていない、それでも嬉しそうに彼は、これからの未来への期待感を膨らませている。
そこからはトントン拍子、スアイガイで村人たちに囲まれて色々話を聞かれて、勿論三人には謝らせて。
アルデハインに行って、おもてなしを沢山受けてそこからアイリスさんの数時間に及ぶ説教が始まって。
「おお、戻って来たか。
ちゃんと全員無事なんだろうな、ミドロ」
「はい、これでようやく反省出来ますね」
ハガリさんと久しぶりに会って、色んな話をして。
ハガリさんは元凶の三人にゲンコツ一撃ずつ喰らわして、その後説教はアイリスさんからくらっただろうと大きく笑う。
「それで、これからどうするんだ?」
キョトン、としながらそんなことを聞くハガリさん。
「しっかりしてください!
ハガリさんが回復するまでは勿論待機ですよ!」
「そっか、俺待ちだったのか。
もうミドロ主導で進めていくのかと思ってたわ」
はぁ、と全員がため息をつく。
相変わらず、呑気でマイペースな人だ。
「じゃ、俺もう行きますね」
船の中でも、ハガリさんともさっき話したこと。
ボス……まだ言い慣れないが、ルンディたちを連れて俺は一旦のルハルやラルゴの世界に行くことにした。
ハガリさんや他にもやり残したこと、皆各々やらなきゃいけないこともあるだろう、俺が一人で行くことにした。
それに、ルンディについても考えがある。
「おう、じゃあまた会おうぜ。
今度は行きたく無い、なんて言わないだろ」
「……はい!」
そこから一週間後、俺はイサナホルンの集落にいた。
前みたいに荷物を運んだりしながら過ごしている。
「こっちだこっちー、まだまだ覚えなくちゃいけないこと沢山あるぞー!」
「今日はもう少しで仕事終わりだ!
踏ん張れよー!」
ルンディも野菜を両手に抱えながら、集落中を走り回っている。
ここで力仕事を受け持つ+用心棒というわけだ。
苦労しながらも楽しそうで、最初は少しビビっていた集落の人たちも可愛がってくれているようだ。
「ミドロ、救助隊の人たち来たんじゃない?」
お母さんに言われて、急いであの場所へ向かう。
最初に救助隊と出会った、あの場所へ。
今度は沢山の人々が集まって、俺のことを送り出す。
「頑張ってこいよー!」
「また、ピンチになったら助けに来てくれよ!」
ばあちゃんが俺の目の前にやって来た。
「ミドロ、ルノちゃんのこと。
それから世界のこと、ちゃんと守ってあげてね。
……たまには、戻って来ておくれ」
「うん、約束だ」
皆の歓声を背中に浴びながら、船に乗り込む。
「どうやら、ちゃんと話せたみたいだな」
「はい」
ハガリさんは、もう身体も大丈夫なようでいつも通り俺たちの目の前に立つ。
「さあ、時間がかかり過ぎてしまったがまずはルノの世界に行かなくちゃいけないな」
「はい、私も向き合いたいです!」
ようやく、俺たちの旅は再開するのだ。
自分でも驚くほど、ワクワクしてしまっている。
「ミドロ、ありがとう!!!」
最後、俺たちの船が浮かび上がった瞬間に聞こえた声。
ルンディが思いっきり手を振っている。
「それじゃ救助隊、行くぞ!
次の目的地は……」
次はどんな冒険が待っているのか、少し不安になるくらいだ。
でも、きっと乗り越えられる。
だって俺は、俺たちは最高で最強の異世界救助隊だ。
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