ダンジョン攻略用の美少女ロボットが反逆してきたけど、俺のことはまだ好きらしい
第17話 There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.
第17話 There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.
ペンティメント社 DEU34支部
『ねぇリーリャちゃん、ここを襲撃する理由はあったの?』
「さぁな。重要なポイントには最新型が向かってるだろう。私達の役割は陽動くらいだろうさ」
『はぁ…なんか辛気臭いわね。音楽でもかけていい?どうせボスも文句言ってこないでしょうし』
許可を得るまでもなく、イェレナは追従する支援ドローンから音楽を流し始めた。アップテンポな曲調で、アレスのメンタル機能が活発になるような良い曲だ。
「…いっそのこと、ただの機械でありたかったよ」
『なに?おセンチなの?一応聞いてあげるわよ。ずっと黙ってるクラーラちゃんも付き合ってあげなさい』
『了解、場合によっては慰めてあげますわ』
通信から聞こえてくる仲間の声だけでは寂しさは誤魔化せない。隣にいたはずの二人は、恐らくもう二度と戻ってこない。やがて用済みになりスクラップになるその瞬間まで、この痛みは消えやしない。
「始めからこんな目的のために生まれてきたのなら…あの時間は何だったのだろうな…」
『…無意味に生きるっていうのも幸せなのかもしれないわね』
「生きる、か…もし彼女の大いなる計画とやらが成功したら…その後の私達はどうなるのだろうな」
『——死は存在しない。なぜならば、死を認識できるのは生きている者だけだからだ——この言葉に従うなら、きっと眠るように我々も終わりを迎えるのでしょう。人間は来世だとか転生だとかを信じているようですが…ただのエーテル波形の複製体に過ぎない我々に、そのようなものがあるのでしょうか?』
クラーラの疑問は的を射ていた。身体を乗り換えるだけなら、普段彼女達がバックアップを用いて行っているのと何ら変わらない。しかし、アレスの意識の終わりは、どこに行くのだろうか。
「……人間になりたいなどと思ったことはないが…ルナリアのように、あの男に恋する一人の乙女として生きられたらと思うと、どうにも演算速度が落ちるな」
『ホントにどうしちゃったのよ。らしくないわね』
「いやなに…珍しく、旧友に会えるとは思わなかったものでな。つい郷愁に駆られてしまったよ」
リーリャの目線の先には、ショットガンを持った天使がいた。
「お話は終わりかい?嬢ちゃん。随分と基地から遠かった割に、さほど重要じゃなさそうで心底ガッカリしたよ」
「どうか邪魔をしないでくれ。友を手にかけたくはない」
「そりゃ無理な話だ。おめおめと逃げ帰るわけにはいかないんでね。ついでに実家を見に行く予定なんで死ぬわけにもいかん」
ガーベラ。かつての主の友であり、彼女自身の戦友でもある。互いにもう二度と肩を並べて戦うことは無いと理解している。それでも銃口を向けるのには躊躇いがあった。
「あまり良い思い出は無かったと聞いたが」
「あの場所が原型もなく変化してればいいなってだけだ」
「…その心は…あまりにも歪んでいる」
「そうかもな。正直、内心少しワクワクしてんだ。世界がこんな有様じゃ、もう平穏な日常なんて二度と来ないだろ?そうなったら…俺はどうなっちまうんだろうな」
ガーベラが自嘲的に苦笑した。過去にも未来にも、彼は希望を見出していない。
「昔っからどっちかっていうとロマンチストでね。まぁあんな環境だったし…いつか白馬の王子様が現れるのを待ってる乙女みたいなモンだ」
「よく口が回るな」
「お前と同じだ。俺もセンチメンタルなんだよ。疲れてるのはお互い様だろ?」
「…本気で言ってるのか?」
「ま、お前がどうかは知らんがね…座れよ。あの大馬鹿野郎に振り回されてる者同士、少しは話せることあんだろ」
あろうことかガーベラはショットガンの銃口を逸らし、瓦礫の上に座り込んだ。
「…………」
リーリャは、あくまで油断を誘って確実に始末するという前提の元で、作戦行動を放棄することを選んだ。
「アレスって吸えんのか?」
ポケットから取り出した煙草の箱は、妙に古ぼけている割に、中の本数を見ると今開けられたばかりだった。
「専用のモジュールが必要だが、別に長期間に渡って連続的に喫煙しなければ戦闘行動には支障はない」
「なら付き合え。一人じゃ吸う気にならん」
「…頂こう」
今にも倒壊しそうなビルの一室に、きっとクロードが嫌うであろう臭いが充満した。
「…正直人類のこととかどうでもいいって思いながら戦ってるのは俺だけか?百年後にはどうせ生きてないんだ。好きにしようが勝手じゃないか?」
「それを聞けばきっと皆が悲しむだろうな」
「どうかな…俺がアストラで戦ってたのは金のためってのは皆知ってることだ。給料が良くなきゃ、違法探索者になってたかもな。それか、アレスのスクラップを売って暮らしてたかも」
「…もし自分が人間だったらと、何度か考えたことがあるが———どう生きるかなど、想像もつかない」
「ハハ、どうせ叶わないことばっかり考えてたんだな。はぁ…俺も人のこと言えねぇか」
「まだ救いを待ち続けているのか?」
「一生何も心配しなくていい生活を約束してくれるやつなら、アレスだろうと人間だろうと、いつでも大歓迎だ。…って言いたいところだが、それはそれで退屈だな。やっぱり今の方が性に合ってるらしい」
「…そういうところは彼に似ているな」
「どうかな。自己矛盾に陥った時、俺は感情を優先するが、アイツは論理を選ぶ。ソレが今の惨状に繋がってるんじゃねぇの?」
まぁ、どうでもいいけど。そう付け足すように、大きく煙を吐いた。
「…ルナリアのことは聞いたか?」
「もちろん。…あぁ、そういうことか…」
「その様子だと、彼はまた一人で抱え込んでいるらしいな」
「…少し疑問なんだが」
「なんだ?」
「俺達、ここで戦う理由あるのか?」
「お前に協力はできんぞ」
言葉の先を見透かすように、鋭く言い放った。
「…逆だよ。俺がお前に協力すんのさ」
「正気か?それは人類への反逆者になることを意味しているんだぞ?」
「あくまであの馬鹿の件だけだ。それ以外には関与しない。あいつを見つけて、話の落とし所をつけたらアストラも辞めるよ」
「…なるほど。———演算完了。その提案は我々の行動指針を阻害し得ないと判断された」
その言葉を聞いて、ガーベラは無線機を外して廃屋の外に投げ捨てた。
「…部下のことはいいのか」
「俺がいなくてもなんとするさ。…けどあの馬鹿野郎は一人にしとくと何しでかすか分かったもんじゃねぇ」
ガーベラのその言葉に、リーリャは久しぶりに心からの笑みを浮かべた。失笑でも自嘲的な笑いでもない、純粋な正の感情から来るものだ。
「ふっ……言えてるな」
ダンジョン攻略用の美少女ロボットが反逆してきたけど、俺のことはまだ好きらしい 小銀鈴夏 @imo_kenp
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