王女・シャルリーヌ ーグリシアの戦いー④

 ミゲルを始めとするタロン傭兵団の面々が先陣を切る形で、帝国兵たちを次々と薙ぎ払っていく。ミゲルの大剣は伊達に大きくはなく、広範囲の敵を文字通り打ち払っていた。

「彼らを雇ったのは正解だったようねえ」

 ニアは魔法で攻撃をしながら、傭兵たちの活躍に舌を巻いていた。

「そんな無駄口を叩けるほどには、今回は余裕があるようだな」

 オリヴィエはそれとなくニアに注意した。

「分かってるわよ。そっちこそ気を付けな・・・さいっ!」

 ニアは向かってきた敵兵に氷の弾を当てる。敵兵は悲鳴を上げて昏倒した。二人が軽口を叩いている間に、ベルナデットは屍兵を探す。今回は二人も頼もしい護衛がついているので、ベルナデットに近付いて来る敵はいない。すると、ふらふらと動く屍兵を見つけた。

「屍兵がいました!」

 ベルナデットは護衛の二人に告げると、屍兵に向かって駆け出した。すると、突然目の前に敵兵が出て来た。ベルナデットは聖剣の力で咄嗟に攻撃を受け止める。そのまま聖剣が押し、敵兵が少し離れた瞬間―甲冑の隙間から脇腹を深く切りつけた。

「があっ!?」

 敵兵は呻き声を上げると、そのまま倒れた。

「・・・・・・え?」

 ベルナデットは倒れる敵兵を見た瞬間、頭が真っ白になった。剣身には赤い血が滴り、手には人間の肉を斬った感覚がまだある。――今、自分は初めて屍兵ではなく、本当に生きている人間を斬ってしまったのだ――そう実感してしまい、身体が上手く動かない。

「ベルちゃん!」

 ニアが背後からやって来て、ベルナデットに声を掛ける。ベルナデットはニアに“私は取り返しのつかないことをしてしまった”と伝えようとした。すると、

「ベルナデット! 今あなたがここで立ち止まっていたら、次はあなたがああなってしまうわよ! あなたは命のやりとりをする戦いに加わると、覚悟したんでしょう!?」

 ニアは鬼気迫る表情で、ベルナデットに訴えかけた。ニアの必死の言葉に、ベルナデットははっとする。

『もちろん、怖いさ。俺も戦場は初めてだからな。だが、そこで俺が逃げるわけにはいかない。そうして俺が躊躇っている間に、多くの民が苦しんでいるかもしれない。だから、進むしかないんだ』

 リシャールの言葉も自然と想起され、今自分が動揺している暇はない、と強く自覚した。大きく頭を振り、自責の念を払いのける。

「・・・すみません、屍兵を倒します!」

 ベルナデットはニアの目を見て答えた。

「任せたわよ!」

 ニアも頷き、また近付いてくる敵兵に火の弾で攻撃した。ベルナデットは先程見つけた屍兵を追いかけ、また見つけた。それは屍兵も同じであり、ベルナデットが自分に向かっていると認識すると、剣を構えて向かってきた。ベルナデットは屍兵よりも速く、剣で屍兵の身体を斬り払った。


                  ■


 ベルナデットが屍兵を倒したのと同じ頃、オリヴィエとミゲルはこの部隊の隊長と対峙していた。隊長は槍を構えている。

「っ、よもや、ここまで追い詰められるとは・・・!」

 隊長はあからさまに動揺していた。隊長の周りを固めていた兵士たちは、あちこちに倒れている。

「どうする? ここで降伏すれば隊の兵士全ての命は保障してやる!」

 オリヴィエは隊長に降伏勧告をした。

「貴様ら如きに・・・帝国が屈すると思うか!」

「おーおー、無駄にプライドが高いのだけは変わらねえのな」

 隊長の言葉をミゲルは茶化した。

「貴様ぁ! 帝国を愚弄するなあ!」

 隊長は追い詰められているせいか、あっさりとミゲルの挑発に乗り、槍を振る。ミゲルは大剣で槍を受け止め、隊長は仕切り直すために離れようとするが、その僅かな隙にオリヴィエが突進し、槍で隊長の腹を貫いた。

「ぐうっ!?・・・こんな・・・!」

 隊長は苦しそうに悔恨の念を口にしようとしたが、その続きが紡がれることはなかった。

「援軍が来たぞ!」

 王国軍の兵士が叫んだ。屍兵もおらず、帝国兵よりも王国軍の兵士の方が多い。リシャールらが合流したのと同時に、生き残った帝国兵は投降したのであった。

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