走るなメロス
tanahiro2010
方向音痴編
方向音痴編 1?
セリヌンティウスの命が、メロスの走りにかかっていた。王の不条理な命令で、メロスは自らの命を犠牲にして友を救うことを誓った。しかし、問題がひとつあった。メロスは、あまりにも方向音痴だったのだ。
「必ず戻る。」そう誓いを立て、メロスは広場を駆け出した。彼は風を切りながら、遥か遠くの村を目指して走り続けた。しかし、その道がどれほど複雑で、また彼がどれだけ道を間違えやすいかを、彼はあまりにも軽く見ていた。
最初の数分、メロスはまだ順調だった。だが、すぐに彼は標識を見逃し、また目に見えた道を無視して街の細道に入り込んだ。次第に、道はますます狭くなり、周囲の風景も次第に変わっていった。空気が湿っぽくなり、どこからか湿地の匂いが漂い始める。
「こっちだ、きっと!」と、自分に言い聞かせて、メロスはさらに進んだ。しかし、どこまで行っても王宮らしきものは見当たらない。代わりに、見知らぬ家々とひどく荒れ果てた土地が広がっていた。
気づけば、メロスは完全に迷子になっていた。何度も方向を変え、何度も反対方向に進みながら、無駄に時間を浪費していった。
物理的な混乱と被害
その間、メロスの無駄な走りがもたらす影響は甚大だった。最初、彼が街中を駆け抜けている時、その速さとエネルギーは周囲に影響を与え始めた。人々が慌てて避ける中、メロスがぶつかった一台の馬車が横転した。車輪が空を舞い、馬が暴れた。駆け抜けたメロスの足元に馬車の車輪が転がり、その衝撃で商人のテントが吹き飛ばされ、商品が道路に散らばった。
「す、すみません!」メロスは謝ることなく、走り続けた。物理的に言うと、彼の速さと不意に発生した衝突が周囲に与えるエネルギーの影響は、かなりのものだった。例えば、彼が通り過ぎた後、瓦屋根が一部崩れ落ち、石畳がいくつか跳ね上がった。
さらに進んだ先、メロスはまったく見知らぬ森に足を踏み入れてしまった。進んでいくにつれて、木々が不規則に立ち並び、地面が不安定になってきた。彼はあまりにも早く走りすぎて、木の枝を避けきれなかった。左腕に激しい痛みが走り、枝が顔を引き裂いた。そのため、さらにテンションが上がって走るメロスが、たまたま倒れていた木を蹴飛ばしたことで、数本の木々が立て続けに倒れ、その音が森中に響き渡った。
「ごめんなさい!もうすぐだ、もうすぐだ!」とメロスは自分に言い聞かせ、前方に向かって走り続けたが、次に彼が気づいたのは、急激に斜面が迫ってきたことだった。山道に足を取られ、メロスはそのまま勢いよく滑り落ち、地面に激しく打ちつけられた。
その影響で、近くにあった岩場が崩れ、巨大な岩が転がり落ちた。岩が落ちる音が一帯に響き渡り、森の動物たちは一斉に逃げ出した。
「くっ…くそ…!」痛みに耐えながらも、メロスは立ち上がり、再び走り出した。だが、何度も走り直していたことが裏目に出て、彼はますます遠くへ迷い込んでいった。
セリヌンティウスの運命
一方、広場ではセリヌンティウスが、王の命令を受けてその場で待機していた。メロスが到着しないことに焦り、彼の代わりに命を捧げる準備を整えていた。その時、メロスの姿はまだ見えない。
「メロス…頼む…」とセリヌンティウスは呟いた。王の衛兵たちが集まり、処刑の準備が着々と進む中、セリヌンティウスの目は必死に広場の向こうを見つめていた。
そして、メロスがやっと現れたのは、王宮の正反対方向からだった。彼の体は泥だらけで、顔には枝や葉が突き刺さり、まるで目が血走っているようだった。その姿を見た瞬間、セリヌンティウスは心の底から安堵の息を漏らした。
だが、時すでに遅し。処刑は予定通り実行されることになった。メロスはセリヌンティウスの元へ駆け寄ろうとしたが、遠くから見たその姿に、メロスの足はますます速くなる。しかし、彼はまた方向を間違え、走りながらも転倒し、再び町を破壊し始めた。
王の命令通り、セリヌンティウスは処刑され、その命は果てた。
結末
メロスが到達したときにはすでに遅かった。彼の心は重く、沈んでいった。結局、彼の方向音痴がすべてを変えてしまった。町の被害を残し、岩が崩れた場所を経て、メロスはただ一言、「ごめん」と呟いた。
この世界の物理法則は無情だった。それでも、メロスは最後に走り抜ける決意を胸に、涙をこらえて生きることを誓った。
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