久賀千秋×宮島莉乃

千秋が斜め後ろの、下野和人と大森純太郎のやり取りを見ながら哀れむ声で呟いた。


「大森、かわいそうに……」


私も乗り出して斜め後ろを見てみると、下野が眠る大森の手に下手くそな絵を描いていた。



「とか言って千秋、本当は下野の隣が良かったんじゃないの?」



千秋が私の顔を血走った目で見つめた。



「イヤだよっ!

かっちゃんの隣じゃ、ロクに寝ることも食べることもできない!」



……確かに大森も食べることを常に邪魔されていたような。



「良いよね、りのは。

塚田みたいな優しーい男が彼氏で」


「え?千秋と下野、付き合い始めたの?」



私の言葉に鼻で笑う。



「かっちゃんがいる限り、他の男子と関われない」



確かに下野は千秋が男と話したり接触したりすると、ことごとく邪魔するからな。



「でも……、それって千秋のこと好きってことじゃない?」



大森の「下野!!」という悲しい叫びが後ろから聞こえてきた。



「好きな子には多分、こんなものは渡して来ないよねー……」



そう言いながら千秋は鞄の中からカエルのゴムの玩具を私に見せてくる。


あまりのリアルさに小さい悲鳴が漏れた。



「ちなみに蝶々とセットで今日の朝、目の前に出されました」



だけど薄く笑って言う。



「本当、迷惑だよ」



千秋がその生き物の玩具を鞄にしまった時だった。



「あっ、ちーちゃん!

今日の帰り、クレープ買お!」



下野が笑顔で千秋に叫ぶ。



「うん、良いよ」



迷いもせず答える千秋は多分、喜んでるんだと思う。


そして、迷いもせず千秋を誘う下野も楽しいんだと思う。






**


理解し難い関係性

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