レシピ2

第5話

「わぁー!こんな立派な所でやるのー?!」


「スズ、うるさい」




和政が私の友達の坂本鈴音に低い声でそう言った。



「……人選ミスだな」



はしゃぐスズを見て和政がポツリと言う。



和政とスズは軽音楽部で同じギャラスタってゆうバンドに入っていて、和政がドラムでスズがキーボード。


だから二人は結構仲が良い。



「スズちゃん、緊張とかしないの?」



一緒に来た福本くんが楽しそうにするスズに言った。



福本くんもギャラスタに入っててギターを弾いている。



「きんちょう……?

何で緊張するの?食事会だよね?」



ね??と、和政を見上げるスズ。



「うん。そうだよ。ただの食事会。

俺らくらいの人も沢山来る」



そしてため息をつきながら頭をかいた。


「だから苦手。


あの友達ごっこがどーしても好きになれない」



そして私を笑顔で見下ろす。



「今日は詩織がいるから良いけど」



スズが先頭で叫んでいる。


「おーさわー!早く入ろー!」


会場は本当に広かった。



「じゃ、フクちゃん。食べ物取りに行こ!」



スズは福本くんにそう提案する。


「え、良いの?」


不安そうにする福本くん。


「良いんだよ。ね、おーさわ」



スズの言葉に和政は黙って頷く。



「好きなだけ食べて、好きなだけ飲んで」



和政の言葉を聞いてスズはスタスタとテーブルに向かった。


そんなスズに福本くんはゆっくり着いていく。



「俺達も、何か食べる?」


「うん、食べる」



和政の言葉に静かに賛同し、背中を追うように歩いた。



「和政くん、久しぶり」



私達と同い年くらいの人も確かに何人かいて和政に話しかけたけど、少しだけ挨拶してから立ち話することもなく私を先導してくれる。


何だか気を遣わせてしまってる、そんな気がした。



「和政、私、スズの所に行っていようか?」



思わずそう聞いてしまう。



「え?なんで?」


「だって……、私がいるとお友達とお話しできないでしょう?」



そう言った私に飲み物を渡す。



「いいよ。

詩織がいるから話さないんじゃなくて、話したくないから話してない」



そして周りを確認して言う。



「みんな、自分の自慢話に夢中だし」



ほら、と和政が示した場所を見ると「昨日、海外のブランドの、」と楽しげに話す高校生が。



「バカみたいだろ」


そう言ってお茶を飲み切る。



「じゃあ……、和政のご両親は?


挨拶した方が良いよね?」


その言葉にも和政は首を振る。



「俺達子供にとってはこれは単なる食事会だけど、父さんや母さんにとっては大事な仕事だからさ。


話しかけたりするとかえって迷惑なんだ」



そう言った和政がいつもと少し違って見えた。


和政の説明によるとこの食事会は二ヶ月に一度くらい行われる、いわば交流会のようなものらしく、私達と同い年くらいの人は皆、社長の娘だったり政治家の子供だったりするらしい。



「と、言っても俺の家なんてまだまだ小さい店だからさ。


あそこに行くと変に疲れるんだよね」



電車の中で和政がそう苦笑していた。



「雅志とかは割と上手くやるんだ。

学校の友達もチラホラいるみたいだし」



雅志くんは中高一貫の頭の良い私立に行ってるらしい。



「あ、和政。ちょっと良いか?」



少し遠くの方で和政のお父さんが呼びかけた。


「なんだろ」


そして和政が私をチラッと見る。



「詩織も行く?」



だけどそこには凄そうな大人達が沢山、いて。



「私、ちょっと化粧室行ってくる」



ごまかして笑いかけた。



「……そっか。

じゃあ、またここに戻ってきてね」



和政はそう優しく言って大人達の所へ行く。



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